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それ行けゆきのちゃん! 2

 雪乃 side 「あら、雪ちゃんいらっしゃい、ゆっくり見て行ってね」 「ありがとうございます」  私の住んでいる所から少し離れた場所にある小さな書店。  そこの店主であるお婆さんにそんな声を掛けてもらえるくらいに私はこの書店の常連になっていました。  何故わざわざ近所の書店ではなく足を運んでここまで来ているのかと言うとそれは至極簡単なことで、私はこの場所に本日発売予定である師匠……ではなく裕先輩のお兄様が出されている小説を買いにやって来たのです。  そう、それは普通の小説ではなく所謂ボーイズラブと呼ばれるもので、色々あってその世界に触れた私は一気にその世界の虜になってしまいました。  それからは裕先輩から色々教えて頂いたり、お勧めだというご本を貸して頂くうちに坂道を転げ落ちていくかの如く好きが溢れて抱えきれなくなり、自分自身の手で書籍を購入したいと思うようになりました。  しかしふと思ってしまったのです。  近くの本屋さんに行ってもし同級生や友達に見つかったら恥ずかしくて死んでしまう、と。  悪いことじゃないとわかってはいてもやはりまだ、今は周りに打ち明ける勇気がないのです。  そう、私がBLにハマっているということは!  なのでわざわざ電車に乗って一駅隣の小さな本屋さんまで買いに行くようにしていれば、そこの店主であるお婆さんとすっかり仲良くなったというわけです。  けれどそんなお婆さんもどうやら毎日いるわけではないらしく、時々、少しやんちゃをしていそうな男の人が店番をしていることがあります。  見た目であまり人を判断してはいけないと分かってはいるのですが、やはり少し近寄り難く、どうしてもお婆さんではなく男の人が店番をしている時は緊張してしまいます。  そんな事を考えながらボーイズラブ関連作品が置かれているであろう小さな一角に向かえば、なんということでしょう、そこには新しいコーナーが出来ていて肝心のお目当ての作品が見当たらず狼狽えてしまいました。  そんな私の様子を不思議に思ったお婆さんが、すぐに思い出したかのように声を上げて手招きをするのでそちらに行けば以前あった場所より少し大きめなコーナーが作られているではありませんか。 「実はね、時々店番をしてくれているのはうちの孫なんだけど、その孫がね雪ちゃんのよく買っている書籍関連をもう少し増やしたらどうだって言ってきてね、大事な常連さんだし種類が沢山あった方がいいんじゃないかって」  そう、ニコニコ笑みを浮かべて言うお婆さんさんの言葉に思わず思い浮かぶのは少し眉間にシワを寄せながらも「ありがとうございます」と、いつもハッキリと伝えてくれる男の人の顔で、何だか無性に嬉しい気持ちが込み上げてきて「嬉しいです」と、そう零せば「これからも武林書店をご贔屓に」と言う言葉が返ってきたので元気よく返事を返しました。  きっとまた、お婆さんではなく男の人が書店にいる時まだ少し緊張してしまうかもしれないけれどでも次にお会いした時には一言お礼を伝えたい。  それにもしかしたらあの人も裕先輩みたいにボーイズラブが好きなのかもしれません、それならばお話ができて友達になれるかもしれない。  そう、考えたら少しだけ次にお会いできるのが楽しみになりました。  私の腐女子ライフはまだまだ始まったばかりなのであります。

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