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1.恋する有名人

 龍 side  物語が好きだ。  キラキラした世界やどろどろした世界、現実とはかけ離れた世界や、限りなく現実に近い世界。  紙とペンだけで世界を創れる。  物語の中では自分の感じたもの、思った事すべてを注ぎ込んで一つの世界が広がるから......  だから物書きになった。  物語を自らの手で作り出すのが好きだ。  物語の中では自分はいつだって、自由だ。  ■□■ 「わざわざお忙しい中、御足労頂きありがとうございます。笹原先生」 「いえ、こちらこそ今回のお話ありがとうございました。脚本を書くのは初めてだったので、色々至らない点もあったかと思いますが書き上げられて良かったです」 「いやいや、もうあの笹原先生がこのドラマの為に初めての脚本作業をして頂けたことが、我々としてはありがたいことですし、それだけでなくこうしてドラマの現場に来ていただけたのも本当に喜ばしいことなんです」 「そう言って頂けるとやはり嬉しいものですね」  コンコン 「あ、どうやら到着したみたいですね」 「失礼します」 「やぁ、よく来てくれたね」 「いえ、僕もお会いできるなら是非ご挨拶に伺いたいと思っていましたので、今回のお話とてもありがたかったです」 「そうかい?忙しいのにわざわざスケジュールを調整させて悪いね」 「調整するのはマネージャーなんで、僕は何もしていないんですけどね」 「そりゃそうか。ははっ、あぁ笹原先生。紹介しますね、と言っても先生もご存じだとは思いますが、今回先生の脚本の、主演を務めてもらう九条彰君です」 「......」 「笹原先生?」  何も答えない俺に対するプロデューサーさんの呼びかけで咄嗟に我に返った。  あれ、俺なんで彼を見て言葉を失ったんだ。 「あ、すみません。まさか僕の書いた脚本を今をときめく大スターである九条彰さんに演じてもらえるだなんて光栄で、つい呆けてしまいました」 「こちらこそ、あの笹原龍先生の初脚本ドラマに主演として出させていただけるなんて、本当に光栄でお話を頂いた時は一瞬、夢かドッキリなんじゃないかなって思ってしまいました」 「ははは、ドッキリなんてするわけないじゃないか~」  そう言って豪快に笑うプロデューサーさんに「ですよね」と朗らかに笑う彼はテレビで見る九条彰そのもので(うわ、本物の芸能人だよ)と何だか当たり前の感想を抱く。 「挨拶が遅れましたね。初めまして、笹原龍です。今回初めての脚本作品で色々至らない点もあるかもしれませんが、もし何か脚本に対して疑問や、わからないことがあったら遠慮なさらず指摘してください」 「っ、初めまして、九条彰です。こちらこそ若輩者ですが笹原先生の手掛けた脚本をしっかり読み込んで全身全霊で撮影に挑みたいと思っています。よろしくお願いします」  一瞬、言葉に詰まった九条彰に対して違和感を感じつつも当たり障りない挨拶と芸能人特有の人当たりの良い笑顔で握手を求められそれに応じ、その日は解散となった。

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