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8.恋するアイドル

 陽仁 side  ひっく、ひっくと小さな嗚咽が聞こえる。  その音は目の前にいる少年から発せられているようでそちらに視線をやった瞬間、自分の意志とは関係なしにその少年の頭を撫でる為に腕が持ち上がる。 「だいじょうぶだよ」  次いで自分の口から零れた声は随分と高く、瞬時にこの状況を理解した。  あ、これ夢だ。  そう、理解したと同時に目の前の少年・・・・・・幼い頃の柊真がゆっくりと顔を上げて視線が重なる。  目元を真っ赤にして、両目からボロボロと涙を零す柊真に対して再び口から勝手に言葉が零れる。 「とうまは泣き虫だなぁ」 「はるが泣かない分ぼくが泣いてるんだよ」 「なにそれ」  あぁ、そうだ、柊真は小さい頃は泣き虫で昔は良く泣いてたっけ。  そんな柊真を慰める度に柊真はそんな言い訳をよく僕に対して言ってたな。  あぁ、これは過去の記憶か……  そんな風に考えていれば柊真が小さく僕の名前を呼んだ。 「ねぇ、はる」 「なに?」 「はるはもし、もしもだよ」 「うん」 「〇〇〇〇〇〇〇〇〇どうする?」  その柊真の問いに夢の中の僕が答えようと小さく笑って口を開いた。  ■□■  ピピピピピ 「ん……」  枕元で鳴り響くアラームの音に意識が覚醒していく。  未だ、鳴り止まない時計を止める為身体を起こし一度伸びをしてアラームを止めた。 「懐かしい夢、みたなぁ……」  あの時、柊真は何を聞いてきたんだっけ?  それに僕はなんて答えたんだったかな……  思い出そうとしてみたものの寝起きの頭はあまり上手く回らず、欠伸を噛み殺して小さくため息を吐いた。  そうして自室から出て、昨日会えず、挨拶をしそびれた柊真の部屋の前へと行き、一つ深呼吸をしてノックをする。  けれど中からの応答が無い。  遠慮がちに扉を開ければそこには誰もおらず思わず「あれ……」だなんて言葉が漏れてしまった。  そのままリビングへと向かえば机の上にメモが置かれていてそこには、単独のバラエティの収録があること、用意してくれた朝食が冷蔵庫に入っていることが書かれていて、要件だけ書かれたメモに思わずくすりと笑って、そして少しだけほっとしてしまう。  昨日、色々考え込んじゃったからな……  あきくんとどんな話をしたのか気にはなるけれどそれと同時に柊真とどう接して良いかちょっと分からなくなっちゃってたから……  そうやって、再び気分が沈みそうになったのを頭を振って無理やり吹き飛ばす。 「朝ごはん!食べよ」  そう、呟き冷蔵庫を開け、用意してくれた朝食の準備をしながらいつもの日課で届いているメッセージに一つ一つ目を通し、返信をしていく。  そして公式のSNSを開いて朝の呟きを投稿し、その流れで完全オフの身バレをしていないゲーム専用のアカウントに切り替えTLをザーッと眺めていく。  普段、毎日のように呟いている仲の良い歳下の友人達の呟きが無いのを少し寂しく思いながらもテスト頑張れ……だなんて、心の中で呟いてそうして一通り目を通し終えアプリを閉じようとした時、ピコンと、通知を告げる音が鳴った。  こんな朝から誰だろうか?と不思議に思い画面を見てみれば見覚えの無い人物からのDMが1件きていた。  一瞬、開くかどうか悩んだもののこのまま放っておくのも気持ち悪いと思いDMをタップする。 「え」  そこに書かれていた内容に僕の思考は停止した。

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