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7.恋するアイドル
柊真 side
「そんなややこしいことになってるの、君達」
「……まぁ、そう、だな」
思わずと言ったように絶句する九条の視線が居た堪れなくて俺は視線を逸らしてしまう。
「いや、うん、そっか、えっと、何て言っていいのやら……」
そう、言いながら口を開けたり閉じたりする九条の反応に更に俺の居心地の悪さは悪化して喉が渇いているわけでもないのに何度も手元のグラスを口へ近づけ中身を確認するようにちびちびと飲んでしまう。
そうして暫くお互い何も言葉を発することなく続いていた静寂を破ったのは九条だった。
「あのさ、柊真君」
改まった態度で呼びかけられたことに思わず俺の背筋が伸びて九条の方へ身体ごと視線を向ける。
「君が俺に相談するって事はよっぽどの事だと思って、それでも柊真君とはる君、当人同士の問題だから話は聞いても何も言わないって決めていたんだけど、君達とは長い付き合いだし、俺にとっても可愛い後輩だって思ってる。だから助言、なんて偉そうなことは言えないんだけど俺が話を聞いて思ったこと、言っても良いかな?」
そう、遠慮がちに言ってきた九条の言葉に小さく頷いた俺を見て九条は少し言いにくそうに口を開いた。
「多分、君達の関係って共依存なんじゃないかって話を聞いていて俺は思ったんだよね。勿論、柊真君がはる君を好きだって気持ちは否定しないし、きっと依存とは違う恋愛感情も君の中にはあるんだと思うよ、でも、はる君はさ柊真君と違って自分で自分の気持ちが分からないんじゃないかな、柊真君に対する気持ちが君と同じなのか、ただの依存なのか分かってないだから素直に君の気持ちに応えられないんじゃないかなって、それが全部だとは思わないけれど少なくともそういう可能性もあるんじゃないかなって」
そう言った九条の表情は少し困ったような笑みを浮かべていて
「自分の事みたいに分かったように言うんだな」
思わずそんな言葉が口をついて出ていた。
そう言った俺の言葉に一瞬目を丸くして、けれどすぐにいつもの笑顔を顔に張り付けて「そこはまぁ内緒」だなんて言ってきたのそれ以上追及する気も起きず、俺は九条に言われた言葉を頭の中で整理するように繰り返した。
■□■
「ただいま・・・・・・」
そう、呟きつつも恐らく寝ているであろう陽仁を起こさないよう慎重に歩く。
陽仁は俺と違って寝つきが良い、一度寝てしまえば朝の決まった時間になるまで目を覚ますことはほとんどない。
それでも一応静かに寝室のドアを開けてベッドの方へ視線をやり、見つけた膨らみへとそおっと近づき、寝顔を覗き込んで小さく息を吐きだしてしまう。
陽仁の寝顔には涙の後があって、恐らくその原因は自分何だろうと自惚れでもなくただの事実として考えている自分がいた。
本当は何となく分かっていた。
九条に言われるまでも無い、俺達の関係が世間的に見れば依存と呼ばれるものに限りなく近いという事を、けれどそれだけじゃないんだって俺の中で確固たる自信があった。
でも、陽仁はきっと違う、ごちゃごちゃ考えて考えてそうして自分の思考でがんじがらめになりやすい陽仁の事だから今も答えを出せずにいるんだろう。
ポジティブに見せかけたネガティブだもんな……
「ばかなやつ」
何にも考えないでただ差し出した俺の手を取れば良いのに、俺の事だけ考えてればいいのに
「あー、まぁこれは確かに依存だって指摘されるよな」
自分の思考に思わず苦笑が漏れた。
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