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6.恋するアイドル

 陽仁 side  柊真の事、この世界の誰よりも特別で大切だ。  大好きだ。  だって自分の分身のように思っていたのだから。  だって、柊真の傍が一番落ち着くから。  だって、柊真と一緒にいると温かい気持ちになるから。  でもこの気持ちって、僕のこの気持ちって、柊真と同じ気持ちなの?  分からない。  柊真の事、ずっと分かっている、理解しているつもりだったのに柊真から僕へ向ける感情だけ上手く汲み取れない、自分の気持ちですら分からない。  僕に「好きだ」って、「恋人になりたい」って言った柊真の真剣な目、そこから伝わってくる火傷しそうなくらいの熱。  それを受け取る勇気がなくて、自分も同じ熱量を返せるのか不安で……  逃げた。  この世界が僕と柊真2人だけの世界だったら良かったのに。  だったら何も悩む必要が無かったのに。 「恋人」なんて、概念生まれなかったから。 「この感情が恋でありますように……か」  ベッドの上で寝転びながら今、撮影している台本のセリフを目で追い、ぽつりと呟く。  主人公は幼馴染に恋する少女。  幼馴染の男の子から告白をされて付き合うようになったものの自分と相手との気持ちの差に違和感を感じ始める。  そんな時、男の子に告白して振られたという後輩から本当に彼のことが好きなのかと、問われる。  その言葉に自分の気持ちが揺らいで分からなくなって、更に他にも色々な出来事が少女に降りかかる……みたいなありきたりな恋愛ドラマ。 「ま、最後はハッピーエンドなんだけどさ」  物語の結末はいつだってハッピーエンドだ。  いや、バッドエンドの作品とかもあるのは知っているけれど、でもやっぱりこの世界、ハッピーエンドになる方が多い。  だって辛い現実を忘れて没頭できるのが創作の世界だもん 「物語の世界の中だけでも幸せな気持ちに浸っていたいもんね……」  柊真に求められると応えてしまう。  だって柊真は小さい頃から僕の為になんだってしてくれた。  そんな柊真に応えたい、何かしてあげたい、しなくちゃってなるのは当然のことだろ?  でもそれが恋なのかと言われたらきっと違うんじゃないかなって思ってしまう。  これはきっと、多分 「依存だ……」  それも共依存。 「あぁぁ!ダメだダメだ、切り替えなきゃいけないのに」  自分の中に渦巻くモヤモヤを取っ払うように頭を大きく振ったものの一度負の感情に支配されてしまえばなかなか立ち直るのは困難で 「っ、こういう時はリフレッシュ、だよね」  そう、自分に言い聞かせながらベッドから起き上がり机へ向かう。  そうしてパソコンの電源を入れ、昔からやり込んでいるオンラインゲームを起動した。 「あ~誰もいない、か……」  気分転換に誰かと話したい気分だったけれど生憎、昔馴染みのギルメンはインしておらず、残念な気持ちになりつつ一人で狩場へ向かう準備を進めていく。 「さっくんもアレクもそろそろ試験が近いって言ってたしなぁ」  ここにはいない仲の良い年下の友人たちの事を思い浮かべて思わず笑いが零れてしまう。 「誰かとお喋りして気を紛らわせたい気もしたけれどあの子達に余計な心配かけなくて済んだから逆にいなくて良かったのかもね」  そう、一人、言葉に出して納得させてそうして一心不乱に僕はゲームの世界へと意識を没頭させた。

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