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5.恋するアイドル

 陽仁 side  僕も柊真も施設で育った。  両親の顔は知らない。  事故で両親を亡くした柊真と違って、施設の前に捨てられていた僕の両親は生きているのか死んでいるのかさえ分からない。  けれどそれは別にどうでもよかった。  だって物心ついた頃から僕の世界には柊真がいたから。  僕は決して一人ではなかったから。  僕の世界は柊真と僕と、その他で成り立っていて、それが僕にとっての普通で、柊真にとっても普通の事だと思っていた。  当たり前のように僕の隣にいる柊真。  この先もずっとそれは変わらない、そうして僕たちは2人で生きていく、無邪気な子供だった僕はそれを愚かにも信じ切っていた。  二人で一つ。  柊真は僕で、僕は柊真。  その考えは大人になった今も僕の中に染み付いて消えない。  柊真がいればそれでいい、柊真もきっとそう思っている。  けれどこの世界で生きていくにはそれじゃダメなんだって気づいた、気づいてしまった。  柊真の傍にいると安心する。  柊真は僕の事を全て肯定して受け入れてくれるから。  決して僕から離れない、僕の事を否定しないから。  でも、なんでかな、凄く幸せなことなはずなのに時々無性に寂しくなって虚しくなって、そうして他の誰かからの愛を、他人からの愛を渇望してしまう僕がいた。  だからアイドルになろうと思った。  愛し愛される、そんなアイドルになりたいと思った。  すごく浅はかな考えだったなって、大人になった今はほんの少し反省もしている。  けれどただ、この道を選んだことに後悔も間違いだったって言う気持ちは何一つ無い。  最初は上手くいかないことばかりだったけれど、縁や、周りの人に恵まれ徐々に人気が出るようになって、幸いなことに今では割と仕事をもらえてきちんとアイドルとしてやっていけている。  そうやって色んな人と関わって、環境が変わっていく中でも僕と柊真の距離が変わることはなかった。  柊真は僕で、僕は柊真だと言う考えも変わらなかった。  だから仕事が軌道に乗ってきて施設を出ることになった時も一緒に暮らそうと言われた言葉にも即座に頷いた。  けれど、あの日、施設を出て、一緒に暮らすことになった夜、柊真に「好きだ」って伝えられた瞬間、僕のその考えは柊真自身によって否定された。  そんな気持ちを抱いた。  当たり前の事だ、どれだけ長い時間一緒にいて、考えが分かって、お互いを理解していると思い込んでいたとしても柊真と僕は別々の人間なんだ。  二人で一つ、なんてのはただの言葉のあやにしか過ぎなくて、僕らはどうしたって別個体でしかなかった。  そんな当たり前のことを分かっているようで分かっていなかった。  僕は愚かだ。

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