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4.恋するアイドル
陽仁 side
「ただいまー」
そう零した僕の言葉に返ってくる声はなくて、明るい部屋はしんっと、静まり返っていた。
「電気、付けっ放しだったか……」
ぽつりと呟きながら鞄を下ろし、手洗い場へと向かう。
そうしてきっちり手洗いうがいを済ませ、冷蔵庫の中から朝のうちに作り置きしておいたおかずを取り出し、電子レンジで温めている最中に携帯を開き届いているメッセージを一つずつ返信していく。
「へ」
その中に同居人、柊真からのメッセージを確認して思わず変な声が漏れた。
「そっか、そう言えばラジオの収録今日だって言ってたっけ……」
メッセージの内容はいたってシンプル
《ラジオの収録の後、九条と飯行ってくる》
「九条」と、書かれた部分に思わず苦笑してしまう。
一応年上で先輩なのだから「さん」をつけるか僕みたいにあだ名で呼ぶかしようよ、だなんて事務所に入った当初から言ってはいるのだけれど如何せん本人に直す気がないのと、あきくん本人が「別に年齢とかにこだわりないから柊真くんの楽な呼び方、話し方で良いよ」だなんて笑って言うし、事務所からも本人達がそれでいいなら良いなんて特にお咎めもないものだから柊真の九条呼びが一向に直る気配はない。
流石にテレビや、お偉いさん方の前ではとってつけたような敬称と敬語を使うけれど眉間のシワがすごいことになっていて思わず僕は隣で吹き出してしまうのを必死に堪えている。
それにしても……
「あきくんと食事だなんて珍しいな……」
普段のやり取りを考えてみれば2人だけで食事に行くだなんて想像ができない、大体いつも僕を入れて3人で食事って流れなのに……
そう考えたらチクリと胸が痛む。
けれどその痛みを無視して温め終えたおかずを電子レンジから取り出し、机へと向かった。
■□■
「帰ってこない……」
あれから食事を終え、お風呂にも入り、寝間着に着替えたものの未だ帰ってこない柊真のことが気になって眠りにつけずにいた。
柊真が僕を抜きにしてあきくんと2人で食事なんて多分、僕らのこと以外に理由なんてないよねぇ……
そんな自分の予想に思わずため息が出る。
そうしてきっと僕がその事に気づくことも柊真はきっとわかっている。
それも込みでのあきくんへの相談なのだろう。
こういう時、お互いの考えていることが分かりすぎるのもなんだかなぁと思ってしまう。
普段は便利なんだけどね
きっと今頃柊真があきくんに僕達の事を相談してどうにかこの不毛な関係から抜け出そうとしているのだろう。
けどね、柊真、例え君がどんな手を使って、どんな考えを持って行動したとしても僕にも僕なりの考えがあって君との関係を変えるつもりはないよ。
明確な形にしなければそれが壊れることも、変化することもないのに……
「柊真はバカだなぁ……」
ぽつりと呟いたつもりだった言葉は思いの外大きく、静まり返った部屋に響いた。
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