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3.恋するアイドル

 柊真 side 「まさか柊真君から2人だけで食事に誘われるなんてね、正直すごく驚いちゃった」  そう、ニッコリと笑う目の前の男にどう、話を切り出せばいいのか迷い早数十分。 「とりあえず飲み物と軽くつまめるもの何か頼もうか、お酒よりソフトドリンクの方が良いよね」と、言い、メニューを見た後店員を呼び出しスラスラと店員へと注文をしていく。  こういう気づかいができるのは素直にすごいと思うものの、それを言葉にすることは無い。  一通り頼み終わったのか、最後に店員が「ごゆっくりどうぞ」と言う言葉を残して消えていった。 「それで、話したいことは纏まった?」 「……」  そう、言われたものの未だ頭の中でどこからどこまで話せばよいのか定まっておらず無言を貫いてしまう。  勢いだけで誘ったからな……  自然と眉間にシワが寄ったが、そんな表情の俺を見ても顔色一つ変えず微笑んだまま「まぁ、」と、九条が口を開く。 「十中八九、はる君のことだとは思うんだけど、喧嘩でもした?」 「けん、かではない、と思う」  聞かれた言葉に答えた俺の声は自分で思っていたよりも随分弱弱しくて、先ほどまで笑みを崩さなかった九条の表情がほんの少し変わる。 「喧嘩してるわけじゃねえんだ、喧嘩じゃない」  自分に言い聞かせるように今度は言葉に力を込めて吐き出す。  喧嘩ならまだ良かった。  それならば仲直りをする為に色々できることがあるから。  けれどそんな単純な事ではないのだ、こんがらがって、解けなくなった紐みたいに俺とはるの間に出来た気持ちの溝みたいなものはそんな単純な言葉で明確化できるもんじゃない。  再び黙り込んでしまった俺にため息を吐くでも舌打ちをするでもなく優しい声音で九条は語りかけてくる。 「前にね、聞いたことがあるんだ。はる君に」  その言葉に俺はただ黙って耳を傾ける。 「はる君と柊真君は付き合っているのかって」 「……」  何となく九条が言わんとしていることが分かった気がするが言葉を発することなくただ九条の言葉の続きを待つ。 「その時はる君言ってたんだ、恋人には絶対ならない、柊真とだけは絶対……って」  知っている、その時九条とはるの会話を壁越しに聞いていたから。  けれどそれを口に出す気にはならなくて思わず唇をかみしめる。  相変わらず何も言葉を発しない俺に対して九条は言葉を続ける。 「柊真君が俺に話したいことってこれに関係あるよね」  その言葉に俯いていた視線をやっと上にあげる。  そうすればいつものにこやかな笑顔を取っ払った真剣な顔をする九条と視線が絡んだ。 「柊真君はさ、はる君の事が好きなんだね」 「そういう意味で」と、続いた九条の言葉に俺はただ黙って頷いた。

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