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2.恋するアイドル
柊真 side
「さて、今週も始まりました、『ぶらっと近場で美味しいもん見つけまひょかー!』番組進行は毎度お馴染み、清水哲平がお送りします!この番組はリスナーの皆さんから頂いた美味しいもん情報を基にお店や食べ物の情報を発信していく飯テロラジオです。毎週来てくれるゲストさんと食べ物について語ったり、実際食べたり、聞いていて今すぐ何か食べたくなる……げふん、のんびりとゆったりする空気を配信する番組となってます!!さてさてさて、第28回本日のゲストはこの方です!!」
「……」
「いやいや、挨拶せんのかーい!」
「あ、自分で言う流れなんですね、すみません。いつも任せっぱなしだったので」
「ははは、確かに君が率先して動いたり喋ったりするの見たことない気がするわ。よしっ、いっちょ任せとき!と、言うわけで今回のゲストはふゆ、」
「冬桜の氷海柊真(ひうみ とうま)ですよろしくお願いします」
「結局自分で言うんかーーーい!!」
「すごい声伸びましたね」
「いや、マイペース!自分ほんまマイペースやな」
「はぁ」
「返しも完全クールやんって、今日は珍しく一人なんやね~、相方君どないしたん?」
「陽仁は今回別の仕事中で」
「別の仕事?」
「はい、うちの相方演技もそんじゃそこらの俳優さんに負けないくらい上手いんで来週から始まる連続ドラマの主役に大抜擢されちゃったんですよね。普段の陽仁とはガラッと変わった雰囲気の役になるので陽仁のファンの方も、そうでない方も是非、初回から見てくれると嬉しいです」
「かーっ、さっきと打って変わってめちゃくちハキハキ喋るやん。しかもしっかり相方のドラマの番宣するとかほんまできた旦那やなー」
「ありがとうございます」
「旦那の部分訂正せんのかーい!と、和気あいあいするのは置いといて」
「え、今和気あいあいとしていたんですか」
「そこはツッコミ入れる所とちゃうから!」
「すみません」
「なんや、はる君おる時とおらん時とで柊真君のテンションの低さが目立ってしゃーない気がする」
「気のせいではないですね、俺、陽仁がいるのといないのとでやる気ゲージ半減するんで」
「いやいやそこは頑張ろうよ!はる君もこのラジオ聞いてくれてるかもしれないんだしさ」
「……そうですね」
「間!そこは即答して!!は~こんな調子で最後まで番組盛り上げることができるのか不安なワイに救世主!今回はなんともう一人ゲストさんが来てくれてはります!」
「こんにちは、九条彰です。今日は陽仁くんの代わり、が務まるか分かりませんが哲平さんと柊真君の意思疎通を同じ事務所の先輩として手助けしていきたいと思っています」
「いや、意思疎通はできてるからね!?」
「そういうわけで今回は僕たち3人で進めていきます、それでは最初のコーナー行ってみましょう」
「え、ちょ、あかん、ラジオ乗っ取られるーーーーー!!」
■□■
「いやーお疲れ様、やっぱ彰くんは喋り上手いなぁ俳優業ばっかやなくてラジオとか司会とかもやってみたらええのに~」
「哲平さんにそう言ってもらえると光栄です」
「柊真君もなかなか良かったで、正直スタジオ入りした時ははる君おらんくてテンションめちゃくちゃ低かったから心配しとったけど杞憂やったみたいやな」
「まぁ、仕事きちんとしないと陽仁に怒られるんで」
「結局はる君の為ってか!まぁ仲良きことは美しきかなってことやな!ほな今日はホンマ楽しいラジオなったわありがとなー気を付けて帰るんやでー」
「お疲れ様です」
「お疲れ様でーす」
豪快に笑いながら手を振って去っていく清水さんの後姿に声をかけながらちらりと横を盗み見れば視線に気づいたのか九条がこちらを向いてそうしてニッコリと微笑む。
その顔を見てついつい眉間にシワが寄ってしまったのは仕方がない。
「俺達も行こうか。今日、夏凪さんはる君所だったよね?一緒に帰ろう」
ニコニコと貼り付けたような笑顔でそう、言葉を続ける目の前の人物が俺は苦手だ。
九条彰(くじょう あきら)
俺達の事務所の先輩で今をときめく人気俳優。
人当たりの良い笑顔を常に浮かべていて、けれど俺から見たらその笑顔は作り物じみて見えて、腹の底が読めない奴。
それになにより、はるがめちゃくちゃ懐いているのが気に食わねぇ。
でも、それでも苦手で気に食わないってだけで別に嫌いなわけではない、それに実際頼りになる人でもある。
所属した時期は近かったけれど売れ始めたのは九条の方が先で、しかも年齢も俺達より上だという事で何かと俺達のことを気にかけてくれている。
そう、気にかけてくれている。
だから巻き込もうと思った。
多分、俺とはる、2人だけじゃずっとこのまま答えが出ないから。
誰か第三者に聞いてほしかったってのもあったかもしんねぇ。
ゆったりとした歩調で歩きながら「お腹すいたねー」なんて呑気に言う目の前の背中に「九条」なんて呼び掛けて
「この後食事付き合って欲しいんすけど」
と、慣れない敬語交じりの言葉を放った。
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