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1.恋するアイドル

 Side 柊真 「好きだ」 「僕も好きだよ」  うそつき 「だって柊真がいないと僕生きていけないもん」  うそつき 「柊真が一番大切、大好きだよ」  うそつき 「本当だよー」  だったらなんで 「好きだ」 「ありがとう」  何で正しく受け取ってくれねぇんだよ。  ■□■  物心ついたころから俺は所謂施設で暮らしていた。  両親の記憶は無い。  俺が1歳の頃事故で死んだ、らしい。  両親は親戚付き合いが無かったようで、引き取り手の無かった俺はこの施設に引き取られることになった。  と、施設の職員からは聞いた。  それが真実かそうでないのかは正直どうでも良い。  なんせ俺が施設で育った事は事実なのだから。  それに俺はそこでかけがえの無い存在と出会えた。  もし、運命ってもんがあるなら俺はそれを信じるし、神様って奴がいるならば感謝したい。  俺と、陽仁を出会わせてくれたのだから。  春日野 陽仁(かすがの はると)  俺が施設に来た翌日、施設の前に置き去りにされていたらしい。  職員曰く、名前と生年月日が書かれたメモだけが置かれており、早朝、掃除をする為に外に出た当時の職員がすやすやと気持ちよさそうに眠る陽仁を発見したのだとこれまた同じ職員から話を聞いた。  施設には俺と陽仁以外にも似たような境遇の子供がいたが歳の近い子供はお互いだけで、必然と一緒に行動することが多く、いつしか隣にいるのが当たり前のようになっていた。  それは学校に通う事になっても同じで、俺たちはいつも一緒にいた。  二人で一つ。  中学生になる頃までは陽仁は俺で、俺は陽仁だ、なんて本気で思っていた。  嘘だ、本当は今でもそう思っている。  アイドルになると言い出したのは陽仁だった。  元々人を笑顔にする事が好きな陽仁はクラスでも、施設内でもムードメーカーでいつだって笑顔の中心にいた。  人を愛し、愛されるアイドルと言う職業は陽仁には天職のように思えた。  俺は正直、陽仁さえいればそれで良いと思っている人間だったのでアイドルなんて向いていない、そう思っていたが一緒にやりたいのだという陽仁の願いを断るなんてことあるはずもなく、俺はその言葉に2つ返事で頷いて、高校を卒業後今の事務所に入り、デビューした。  最初は上手くいかないことばかりだったけれど、縁や、周りの人間に恵まれ徐々に人気が出るようになり、今に至る。  そうやって色んな人間と関わり、環境が変わっていく中でも俺と陽仁の距離は変わることはなかった。  アイドルになって別々の仕事が振られた時は離れることはあっても、それ以外の時は大体一緒にいたし、仕事が軌道に乗ってきて、施設を出ることになった時も一緒に暮らそうという提案は即座に肯定され、何度か引っ越しはしたものの今でも帰る家は同じだ。  陽仁が好きだ  物心ついたころからずっと  好きになった理由なんてない、俺は陽仁じゃないとダメだし、陽仁だって俺じゃないとダメだってそう、本気で思っていた。  陽仁だって俺と同じ気持ちだって信じて疑わなかった。  あの日、施設を出て、一緒に暮らすことになった夜、曖昧な関係に終止符を打ち、名前の付いた関係を手に入れようと、伝えた言葉を否定されるまでは。  ■□■ 「分かってんだろ」 「何が」 「俺の言いたいこと」 「……柊真のことちゃんと好きだし、特別だよ。それじゃダメ?」 「恋人になりたい」 「それはダメ」 「何でだ」 「恋人にだけは絶対ならない、なりたくない。」  何度、この不毛なやり取りをしただろうか。  初めて陽仁からその言葉を受け取った時、ガツンと頭を一発殴られたような衝撃を受け、その時はもうそれ以上何も言えなかった。 「じゃあ何で身体を重ねた。同情か?」 「そうじゃない」 「誰でもよかったのか」 「分かっているくせに、意地悪だね」  そう、眉を下げて小さく微笑む陽仁に俺の眉間の皺は濃くなる。  特別だって、好きだって、そう言うくせに恋人にはならないなんてそんな馬鹿な話があってたまるか。  そう、思うのに結局うやむやなままこの曖昧な関係に名前を付けることもできずこの話題はいつも平行線のまま終わる。  そうして今もズルズル身体の関係だけが続いている。

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