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9.恋するアイドル
柊真 side
「はぁ~~~」
「珍しいですね、柊真くんがこれ見よがしにため息つくなんて」
「……」
「陽仁くんと喧嘩でもしたんですか?」
「……喧嘩はしてねぇ」
「まぁ君達2人じゃ喧嘩になりませんもんね、柊真くんは陽仁くんに甘いから怒らせることはあっても怒ったりすること殆どないですし、喧嘩でなくまた、何か陽仁くんを怒らせるような事したんですか?」
「……何でため息の原因がはるだって決めつけるんだよ」
「え、違うんですか?だって柊真くん、陽仁くん以外の人間に対してとんと興味ないじゃないですか、そんな風に悩んだり、心動かされたりしないでしょ?」
「ちがっ、わなくもねぇけど、人をそんな冷徹人間みたいに言うなよ」
「事実ですから」
車のハンドルを握りながら俺の方を見ることなくバッサリと言い切ったマネージャーに俺はそれ以上何も言えず押し黙った。
俺達冬桜のマネージャー夏凪菖吾(なつな しょうご)。
陽仁がアイドルになると言い出した原因……きっかけを作った人物。
高校3年、進路の話がちらほら出てくるようになった頃、夏凪さんに陽仁はスカウトされた、らしい。
その場に俺はいなかったので2人の間でどんな話がされたのか詳しい内容は分からない。
ただこの人の話を聞いて陽仁がアイドルになるって言い出したことは事実で、本格的にデビューして冬桜として活動するようになってから今までずっと何かと世話を焼いてくれている頼りになるマネージャーだ。
本人には調子に乗るだろうから絶対ぇ言わねぇけど。
「それで、それだけ大きなため息を僕に聞こえるように吐くって事は何があったか聞いてほしいってことですよね、どうしたんですか?」
「そこまで気づいてんならどうしたんですか、の一言だけで良くね?」
「性分なもんで、ほら、早く話さないと現場ついちゃいますよ」
「開き直んなよ……いや、別に喧嘩とかじゃねぇんだけど、て言うか俺が一人で勝手に気まずくなってるだけなんだけど」
「前置きが長い」
「バッサリ切り捨てんなよ!」
相変わらず前を向いたままこちらを見ない夏凪さんのあんまりな対応に思わず文句が口をついて出てしまう。
けれどそんな俺の事なんてお構いなしに夏凪さんは言葉を続ける。
「後、さっきから言おうと思っていましたが口が悪くなっていますよ。柔らかく、を意識してください。君はもうアイドルなんですから」
「今は夏凪さんしかいねぇじゃん」
「今はそうでもそう言うのは普段から意識していないとポロっと出てしまうんですよ。と、言うか君の場合時々出てますからね」
「うっ」
「まぁ、それは今は置いておくとして、結局柊真くんは何が言いたいんですか?」
話脱線させたの夏凪さんじゃん、何て出そうになった言葉は何とか呑み込んで本題を切り出す。
「……今日、夏凪さん俺を送ってくれた後、陽仁のこと迎えにいくんだよな?」
「えぇ、陽仁くんは昼からドラマの収録がありますから」
「その時、陽仁がどんな様子だっ
たか教えて欲しい」
「どんな様子って、一緒に暮らしているんだから自分で確認するなりなんなりできるでしょうに」
そう、呆れを含ませた夏凪さんの言葉に思わず拗ねたような声音で言葉が飛び出る。
「昨日の夜から会えてねぇんだよ、ここ最近別々の仕事が多くてすれ違う事も多いし、多分今日もお互い起きている時間には会えないだろうからそれに、俺と一緒にいる時といない時とじゃ色々違うかもしれねぇし……」
何だか自分で言っていて段々情けない気持ちになってきて、どんどん声が小さくなっていく。
そうして、やっぱ今の無し、だなんて言おうとした俺の言葉は「仕方ないですね」だなんて言って小さく笑った夏凪さんに遮られた。
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