陽仁　side 「陽仁くん、元気ないみたいですけど何か心配事でもあるんですか？」 「へ、」 　あの後、誰から送られてきたのか分からないDMのメッセージを読んで思わず停止した僕の思考を現実に連れ戻したのはチャイムの音だった。 　慌てて出てみればそこには俺達冬桜のマネージャーである、菖吾さんがいて急いで仕事へ行く支度を済ませ、車に飛び乗ったのが数分前。 　そうして車内でもんもんと先ほどのメッセージについて考えこんでいた僕に対し、菖吾さんがそんな言葉を投げかけてきたので咄嗟に反応ができなくて間の抜けた声がでてしまった。 「何かあるなら言ってくださいね、解決できるかどうかは分かりませんが話を聞くくらいならいつでもできますから」 「え、あ、いやえっと、大丈夫だよ！！」 　そう、言ったもののきっと菖吾さんには嘘だっていうのはバレているんだろうなと、心の中で思わず苦笑してしまう。 　そんな俺に対してそれ以上何か聞いてくるでもなく「そうですか」と、だけ言って菖吾さんは黙ってしまい車内には沈黙が流れる。 　けれどその沈黙は一瞬で 「柊真くんとのことですか？」 　と、再び菖吾さんが口を開いた。 　思ってもいなかった言葉に思わず 「何でそこで柊真が出てくるの？」 　なんて言葉が僕の口から飛び出た。 「今朝、彼に陽仁くんの様子がどんな感じだったか教えてほしいと言われたので陽仁くんの元気のない理由も柊真くん関連なのかなと思ったんですけど違いました？」 「……ねぇ菖吾さん、それ僕に言って良いの？」 「あ、言わない方が良かったですかね、でも別に口止めとかされてませんし、僕が言われたのは陽仁くんの様子を教えてほしいって事だけだったので」 　あっけらかんとした態度でそう言った菖吾さんに今度は心の中ではなく、苦笑が口をついてでた。 「柊真のこと、ではないよ」 　柊真の事じゃない、いや、確かに昨日の夜から朝起きた時までは柊真とのことで色々ぐるぐる考え込んでしまっていたけれど、でも今はそれとは別の事で頭がいっぱいなんだ。 　ただ、それを話して良いのか躊躇してしまう。 　いや、本当はわかっている。 　話すべき内容だって事。 　けれど、きっと話したらこれからしようとしている僕の行動は止められるだろうから…… 　だから…… 「本当に僕は大丈夫だから、ちょっと今日の撮影シーンの事考えていたら役に感情移入しすぎちゃってナイーブになってるだけ！僕は今日も元気いっぱいだよ！！」 　そう、少し大袈裟なくらい明るい声音で言えば小さくため息を吐いて 「わかりました。何かあったら僕でも柊真くんでも良いのできちんと話してくださいね」 　と、言ってくれた菖吾さんに対し、ほんの少しだけ浮かんだ罪悪感を打ち消すように心の中でだけ謝った。