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30.恋するアイドル

   陽仁 side 「柊真はどうして僕の為にここまでしてくれるの?」  息を切らして勢いよく開けた玄関の先、ソワソワと落ち着かない態度で右往左往していた柊真に飛びついて言い放った脈絡の無い言葉。  突然の僕の行動にたたらを踏みながらも、持ちこたえた柊真は、そんな脈絡の無い言葉に小さく笑って 「陽仁の事が好き、いや、愛しているから」  キッパリ、言い切った。  愛だよ、全て愛なんだ。  そう続いた言葉に今まで何度言われても耳を塞いで目を瞑って聞こえない、気づかない振りをしていた自分が何だか馬鹿らしくなってきて笑いがこみ上げてくる。  なんだ、簡単な事だった。  熱量が違うとか、同じ気持ちじゃないかもしれないとか、そんなのどうだっていいんだ。  臆病な自分はそうやって誤魔化して目を逸らして逃げていただけだった。  だって、だってそれなら僕だって 「僕も柊真のこと愛しているみたい」  もうずっと昔から、きっと柊真と同じくらい、ううんそれ以上に 「知ってる」  笑いながら言った僕の言葉に笑顔で柊真が答える。  だってこんなにも愛おしいんだもん、でも…… 「恋人になるのは嫌だな」 「は、今の流れで言うセリフか?」 「だって明確に名前つけたら壊れちゃうじゃん、恋人はいつか別れるかもしれないだろう」 「はぁ?」 「だからさ、」  怪訝そうな顔をする柊真とは反対に飛びっきりの笑みを浮かべて 「家族になって」  何て言えば、一瞬面食らった表情をした柊真が 「もうとっくに昔から家族だよ」  だなんて返してくる。  それに対して 「それもそうか」  だなんて答えた僕に「そうだよ」なんて  今度、叔父さんと会う時報告しよう。  柊真は僕にとって相方で、恋人で、親友で、大切なこの世界でたった一人の家族だって。  そう、考えた時ふっ、と幼い頃の記憶が蘇る。  小さく泣きじゃくりながら不安そうに僕の腕を掴んで質問を投げかけてきた柊真。  そんな柊真に小さく笑って幼い僕は 「どうもしないよ、僕はとうまとずっと一緒にいる。だって僕の家族はとうまだもん」  そう、ハッキリ告げたんだ。  その言葉を聞いた柊真はまん丸い目から涙を零しながらへにゃりと笑ってくれた。  それがすごく、すごく嬉しかったんだ。  あぁ、最初に約束をしたのは僕の方からだったのにね。 「陽仁、なんで泣いてんだよ」 「なんでだろうね」 「いや、俺が聞いてんだけど」 「ねぇ、柊真」  戸惑う柊真に対してごめんねと、出そうになったその言葉は呑み込んで名前を呼んだ。 「これから先、死ぬまで……ううん、死んでも一緒いようね」 「当然」  突拍子もない僕の言葉に間髪入れず答えてくれた柊真の笑顔は眩しくてそれだけで今まで胸の中、つっかえていたものが全部消えたように感じたんだ。

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