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003 恋じゃなくても:R

「腰がいてぇ」  ソファにいる僕の隣にドカッと座り、清崇(きよたか)が炭酸水のボトルを開けて飲み始める。 「ちんこもジンジン、タマもスカスカだぜ」 「そこまでしなきゃ、足りないでしょ」 「ん……そうだけどさ」 「立派なマゾなんだから」  ピザを頬張りながら僕を見る清崇の瞳は、恨めしげ。 「誰のせいだ?」 「さぁ、遺伝子に組み込まれてるんじゃない?」  知らん顔して答えた。 「早めにわかってよかったね」 「玲史。俺はなぁ、お前にやられるまでは普通のセックスで十分満足してたんだよ」 「へぇ……」 「SMプレイなんざしなくてもな。おまけにタチで」 「きみはMだよ。じゃなきゃ、苦しいときにあんなハッピーな顔出来ないもん」  清崇が深い溜息をつく。 「いい加減、お前と会うのやめねぇと……幸汰(こうた)にバレちまう」  幸汰は清崇の2年来の友達で、先月から恋人関係になったらしい。 「けっこう楽しんだし、僕はいいよ。きみがやめられるなら」 「はー……まだ無理だな」 「言えないの? いじめてほしいって」 「そんなん、引かれるだろ!? 十中八九!」 「10パーセントはセーフだね」 「やっとでつき合えたんだぞ。賭けれるか、んな低い成功率に」 「セフレと続いてるの、バレるリスクは負うのに?」  首を傾げて意地悪く見上げる僕を見つめ、清崇がまた溜息。 「お前は誰かいねぇのかよ」 「恋人候補? それ、関係あるの?」 「……俺からやめらんねぇから。お前が離れて」 「何その人まかせ。幸汰くんビックリするだろうね。まだセックスしてないんでしょ? きみが抱くの? それとも、抱かれるつもり?」 「俺が男抱いたことあんのは知ってるけど、ネコやってんのは知らねぇし」 「マゾなのも?」 「だとしても、プレイ中だけだろ」 「そこが重要でしょ」 「とにかく。あいつ、オクテで……そういうのはもうちょっと待ってほしいってよ。男に抱かれんの嫌かもしんねぇな」 「ふうん……じゃあ、突っ込ませれば? 清崇はもう、タチでノーマルセックスなんかで満足出来ない身体なんだから。最初に本性見せたほうが楽だって」 「んな単純なもんじゃねぇの。俺のこたぁいいから。いねぇの? お前の学校、ゲイだらけなんだろ?」  清崇の言う通り。  うちの学園は、中学を寮で過ごした持ち上がりの生徒が半数……多くがゲイ。外部受験で高校からのノンケの生徒が半数で。  それぞれにバイになったのもいるから、男とやれるのは5分の3くらいかな。 「まぁね。今日、転校生が来たんだけど……」 「どっち?」 「本人はノンケだって。でも。絶対、男慣れしてる。女も慣れてそうだし」 「バイか。好み?」 「ううん。特には。整った顔立ちで軽いノリなのに、ダークで危険な気配隠してる感じ。興味は湧いたな」 「へー。前言ってたあれは? 委員長だか何だか」 「委員長はマジメで従順なタイプだから、つまんない」  將梧(そうご)はモロ委員長って感じで、あんまり征服欲を掻き立てられないんだよね。キレイな顔と身体してるから、精液でドロドロに汚して鑑賞したくはなるけど。 「書記の紫道(しのみち)だよ。僕が目つけてるのは」 「そう、そいつ。本気で落とせ。お前もちっとは恋愛しろ。適当な男捕まえてマゾに変えてねぇでさ」 「マゾになる男は、もともと素質があるんだってば。あーだけど……」  今日のLHRでの紫道を思い出す。  ちょっとからかっただけで顔赤くして、あの表情……そそられた。もっと歪めて泣かせたい。 「うん。そうだね。ちょっと本気になってみようかな」 「なれ。いいぞ、恋ってのは」  いい笑顔でそう進言する清隆。  けどさー。  さっきまできみ、淫らに啼きまくって空イキ繰り返してたじゃん?  恋する男のでなく、快楽を共有するだけの僕のペニスくわえ込んで……説得力あるソレ?  身体が喜ぶことに心は不可欠じゃないって知ってるくせに。  心も満たされたいって……贅沢だよね。  まぁ、でも。  久々に気に入った獲物、仕留めるために本気出すのも悪くないかな。  恋じゃなくても。手に入れたいっていうこの気持ちと劣情は、まぎれもなくホンモノだからね。

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