4 / 167

004 僕のネコにするの:R

 何だかんだいって。清崇(きよたか)とやって性欲が満たされた次の日は、身体が軽くて心穏やかになる。  睡眠不足の頭は少し重いけど。 「おはよ、玲史。ちょっと相談あるんだ」  学園の昇降口で、クラスメイトの新庄(しんじょう)(さとる)に会った。  小柄でかわいい顔の聡はゲイにモテる……もちろん、ゲイ。  外見を裏切らず、小悪魔なネコで。うちのクラス、2-Bの半数にかわいがられるアイドル的存在だ。  僕もまだ170センチに届かない身長で。ロリコンに狙われる美少年タイプって言われる顔のせいもあって、聡と同類に見られることも多いけど。  まったくの別種だってこと、僕を知ってる人間はわかってる。  はじめは勝手にライバル視してた聡も、今は仲良し。  お互いに好みじゃないから、セックスは試したことない。 「おはよー。何の相談? 勉強? エロ?」 「エロ。ていうか、(かい)くん……一目惚れしたかも! 攻略法教えて」  朝から元気だなぁ。 「きみには無理」  笑顔でハッキリ言ってあげた。 「ひど……何で? まさか、玲史……もう!?」 「そんなわけないでしょ」  笑った。  僕をどう見てるのこの子。食えれば誰でもいいとでも?  まぁ、確かに。  凱くんに興味は持ったけど。 「速攻で落ちるほど甘くないと思うよ彼。やらせてくれるならやるってサルじゃなさそう」  聡が肩眉を上げる。 「ノンケだから?」 「ううん。男もイケるはず」 「ネコっぽい?」 「ううん。どっちも出来るんじゃないかな」 「じゃあ、僕にもチャンスあるじゃん。1回やったら虜になってくれるかも」 「へー、そんなテクあるの?」  浮いた噂は多いけど、聡を抱いた男本人に話聞いたことないな。 「しばらくやってないから、サービスしちゃう」  合わせた目。  考えたのは同じ。 「いくら欲求不満になっても、玲史はヤダ。セックスの時にやさしい男がいい」 「僕も遠慮しとく。最初から甘えてねだられるのって、興奮しないんだよね」 「マゾが好きなくせに。僕は違うけど。僕の絶妙なツンデレ知らないくせに。試させる気ないけど……」  気分を害したのか。ブツブツ文句言ってる聡の拗ねた顔は、確かにかわいらしい。みだらに喘がせたくいって思う男が多いのも納得。  でも。  愛らしいウサギとかチワワより、ヒョウとかドーベルマンみたいな強い男を乱れさせたいの僕は。 「僕はサドでもやさしくするんだけどな。ま、今ほかに目つけてるから、凱くんは狙ってないよ。がんばってみれば?」 「うん。て、玲史が誰を? うちの学園?」 「紫道(しのみち)」  目をパチパチして僕を見つめる聡。 「マジ……!?」 「マジ。おかしい? ああいうの、好みなの」 「だって……え? 川北ってゲイ?」 「自分ではバイって言ってる」 「だとしても、タチじゃない? 玲史に抱かれるって……想像できないんだけど」 「どっちだろうが僕のネコにするの」 「……だましうちで強姦するとか?」  聡が嫌悪感を顕にする。 「そういうのよしなよ。レイプって最低」 「同感。もちろん、しない。ちゃんとその気にさせてからやる」 「ならいいけど」  表情を緩めた聡が、覗き込むように僕を見る。 「川北はマジメでカタそうじゃん?」 「そこがいいの」 「落とす自信あるんだ? もう告った?」  告る……?  抱きたい意思は伝えてあるけど。 「落とせれば、満足させる自信はあるよ。でも、つき合うとか興味ないし。好きとかもわかんない。セックスしたいだけ」 「玲史。ソレ、ダメなやつ」 「何で?」 「恋人でもない、好きでもない男に……ただやりたいだけって言われて。抱かれる気になると思う?」  顔を見合わせた。 「きみは……」 「僕は嫌だな」  きみはやりたい気分ならオッケーでしょ?  そう言おうとしたのに。  嫌って。  性欲だけでセックスしないってこと? 「きみは、ちょっといいなぁくらいの男ならオッケーかと思ってた」 「僕、ビッチじゃないから」 「誘われてその気になんない?」 「好きって気持ちがないとダメ」 「彼氏以外とはやらない?」 「……つき合ってなくても、やることはある……かな。あーやっぱビッチかも」  自分で言って頭を振る聡に笑う。 「でも。やりたいだけってのはないから。玲史は、やるのに恋愛感情要らないのかもしんないけど。川北みたいなタイプには必要だよ、きっと」 「恋愛なんかしたことないもん。でも、好みの男しか抱く気にならないし、好みの男でもレイプされるのは不快」  肩を竦める。 「僕だって、見た目が好みなら誰でもいいわけじゃないよ。その気になるのは、もう一味なんかある。紫道は友達として好きだし」  暫し僕を見つめ、聡がフフッと笑みを浮かべた。 「それ、恋かもね」  は!?  何でそうなるの?  今までセックスした男には、確かに見た目以外にやりたくなる何かを感じたと思うけど……恋心っていうのはない。  何度もやってる清崇にだって、ない。  どんな感情か定かじゃないにしても、恋じゃないのはわかる……はず……じゃない?  腑に落ちないまま、聡に続いて2-Bの教室に入った。

ともだちにシェアしよう!