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005 がんばってもいい、かな:R

 始業まで余裕ある時間で、教室に人影はまだまばら。 「おはよー、將悟(そうご)」 「おはよう」  目が合って、朝の挨拶。 「御坂(みさか)くんも。おはよー」 「ああ、おはよ……」  將悟と一緒にいる御坂は真性ノンケで、ゲイには素っ気ない。いつもつるんでる佐野と並んで、ナンパ好きの女タラシだ。 「恋なんかナシでセックスする男、けっこういるじゃん? ノンケもゲイも」  御坂に向けた僕の視線を追って、聡が鼻を鳴らす。 「そうだね。ゲイだと岸岡とか。誰でもいいなんて、安い男。きっとフニャチンだよ。バイブのがいい仕事するでしょ」  岸岡はゲイの遊び人だ。  険のある言い方……わりと気に入ってるのかな。どうでもいい人間のこと、わざわざ貶したりしないよね。  自分の恋愛経験はゼロだけど、人のはたくさん見聞きしてるから。恋とか愛とかいうモノに動かされる言動は知ってるつもり。  人のは、知ってる。ある程度わかる。  僕自身のは知らない。わからない。  要らないって思ってるから。 「そういえば。玲史って、色恋の噂全然聞かないよね。口止め徹底してるの?」 「ただ単にないだけ。この学園にそそられる男いないんだもん。去年、3年に襲われそうになってやっつけたことは何度かあるけど」  聡の疑問に答えながら、口元をほころばせる。 「おもしろいの。簡単に押さえつけられるって思って油断してるとこ反撃すると、余裕で倒せて爽快」 「……そっか。その見た目じゃ、玲史も狙われるよね。ケンカ……ほんとに強いんだ」 「身を守らなきゃって必要に迫られて覚えた。殴り方、教えよっか?」 「いいや。僕には無理」  聡が顔をしかめる。 「自分が痛いのはもちろんだけど、人が痛がるの見るのもちょっと……」 「僕だって、痛がるのはそれほど好きじゃない」 「……サドなんでしょ? 顔に似合わず」 「単なる性嗜好なの。精神病の障害とは違うもん」  これ、大事。  僕のはあくまでも嗜好だから。  そのほうが興奮するし、満足感あるし。楽しいし。  でも。  コントロール出来ない病んだ欲望じゃない。  人を傷つけたいなんて思わない。  性嗜好のサドは、病気じゃないから。  いじめる相手がそれを望んでるって前提でやる……無意識だとしても。  セックスで支配するのはプレイのうち。  尽くしてサービスして気持ちよくさせて、気持ちよくならなきゃね。  それに……。 「羞恥心煽ったり辱めるのが基本で、痛くしないよ。我慢はさせるけど」 「ココロの苦痛じゃん。SMプレイなんて絶対イヤ」 「ホレた男にせがまれたら、やるんじゃないの?」 「……ホレ具合による」  ひと呼吸分考えて、聡が言った。 「マゾ願望ないから」 「やってみたらハマる人もいるよ」  紫道もきっとハマるはず……。 「川北は知ってるの? きみがSだってこと」 「うん、一応は。素質ありそうでしょ」 「そう……かなぁ? 全然見えないけど」 「ああいう硬派な感じの男が羞恥に悶えるのって、すごくクルよ。セックスで乱れる時のギャップもいいし、ゴツい身体支配するのがたまらない」 「なんか……」  聡の眉間に皺が寄る。 「玲史に狙われてる川北が不憫に思えてきた」 「だから。紫道はきっとMなんだってば。大丈夫」 「……きみの希望でしょ。可能性もなくはないけど」 「あー……早く確かめたい。その気にさせる方法考えなきゃ。いい案あったら教えて」 「あるよ」  パッと表情が明るくなり、楽しげな笑みを浮かべる聡。 「川北とやりたいなら、好きになれば? で、ホレさせてつき合うのが先じゃないと。がんばって」 「そこまでして……」  言いかけて。  ほしくない?  ううん……ほしい。  何でだろ。  紫道は妙に気にかかる。  どうしてかはわからないけど。 「うん。やってみる」  がんばってもいい、かな……けっこう本気でね。

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