19 / 167

019 僕とつき合ってほしい:R

 胸ぐらを掴まれて、殴られてもよかった。  わざと挑発したから。  屈辱を味わわされた男に怒りがあるなら、発散したほうがいいじゃん?  普段あんまり出さない紫道(しのみち)の負の感情、見たいってのもあったし。  それぶつけられたら、られたで……少しは気許してくれてるんだなーって思えるし。  でも。  紫道は僕の肩に手を置いてうなだれただけ。 「言うな……情けねぇ身体だってのは、十分思い知ってる」  苦々しい紫道の声。 「だから、遊びでやるとか……したくねぇんだ」 「情けなくなんかないよ。感度がよくて、快感に弱いってことじゃん。いいカラダ……楽しみ」  思いっきり眉を寄せて僕を見つめたまま、紫道が僕から手を離す。 「玲史……聞いてたか。俺は……」 「身体だけの関係は嫌なんでしょ?」 「ああ、そうだ」 「ねぇ。恋愛経験ないなら、そのあとは誰ともやってないの?」 「……女と一度、だけだ」  言いにくそうに答える紫道。  好きじゃなくてもセックスしたんだ?  なんて、ツッコんだりしない。 「あ、バイだって言ってたもんね」 「やれはしたが……また抱きたいとは思わなかった」 「男に抱かれたい?」  紫道の瞳が揺れる。 「どう……だろうな」 「じゃあ、僕から提案」  自分の横、ベッドの縁を叩いた。 「座って、ここ。何もしないから絶対」  ためらいがちに紫道が隣に腰を下ろすのを待って。 「僕ね、きみのこと好きだよ」  まずは好意を伝えて。 「友達として、だろ」  一瞬。身体を強張らせてから、紫道が言う。 「それなら、俺もだ」  次は望みを。 「うん。でね、きみとセックスしたいって思ってる」 「……それは、性欲だろ。だけじゃないにしても」 「うん。でもね、紫道だけって言ったじゃん。1年もそう思い続けてるのって」  片足をベッドに乗せて、身体ごと横向きになる。 「だから、あるでしょ? きみに恋してる可能性」  策じゃなく、マジ。  過去の話聞いて。今こうして向き合って、思った。 「そ……れは……」 「わかんないよ。でも、確かめたいの。だから……」  少なからず動揺してるっぽい紫道に微笑んで。 「僕とつき合ってほしい」  提案、ていうか。  恋する気持ちとかじゃないけど。これも告るの一種だよね。 「れい……」 「もし。紫道にその気が1パーセントもないなら今、はっきりノーって断って。そしたら、もう誘わない。もちろん、友達なのは変わらない」  畳みかけるようにそこまで言って、紫道の言葉を待つ。  これでダメならダメってこと。  紫道がほしい。すごく。  いますぐここで押し倒したいくらい……だけど。  ムリヤリ奪う真似はナシ。  やりたいオンリーの辛抱たまらずは、言うに及ばず。たとえものすごく好きでも、愛ってのがあっても。  強制性交する人間は最低のクソだもん。 「俺は、たぶん……お前に……」  たどたどしく、紫道が口を開く。 「お前と……やるのは、嫌じゃない」 「ほんと? 嬉しいな」 「けど……」  紫道が続ける。 「いきなりつき合うってのは、待て」 「何で? 気持ちがないから?」 「いや……」 「どうしても恋愛感情にならなかったら、即別れればいいでしょ」 「……お前の『つき合う』は、セックス込みだろ」 「ほかに何するの?」  色黒の顔を赤くした紫道が、大きく息をつく。 「さっきも言ったが、考えさせてくれ。もう少し……」 「今。決めて」  紫道の言葉を遮った。 「じゃないと、踏ん切りつかないでしょ。ていうか、今ノーなら1週間後もノーじゃない?」  沈黙は長くなく。 「お前には大したことじゃないんだろうが、俺にとっちゃ今オーケーするのは……簡単じゃない」  そう言った紫道の顔見て確信する。  ノーじゃない。  まだ、オーケーに振り切れてないだけ。 「ほしいのは時間? きっかけ?」 「……両方だ。来週から学祭の準備で忙しいだろ」  それじゃ、考えるヒマもないんじゃ……? 「選挙もある。立候補がいなけりゃ俺かお前か將悟、最悪2人出なきゃならないが……俺は風紀委員に立候補するかもしれない」  選挙……風紀……。 「僕も立候補する!」 「は!?」 「風紀に」  困惑気味の紫道を見つめる僕の瞳、らんらんと輝いてるはず。 「選挙じゃなくて現委員が決めるんだよね?」 「ああ、そうだ……」 「立候補して風紀委員になれたら、僕とつき合って。これでどう? 時間ときっかけクリア」 「俺は……」  紫道が開いた口を閉じる。 「なれなかったら。その時、きみが決めていいよ」 「……俺もなれたら?」 「んー……つき合っても無理強いはなし。きみがいいって言うことしかしない、とか?」  思案顔の紫道が息を吐く。 「俺はまだ、覚悟しちゃいない。まだ……怖いんだ」 「何が?」 「……身体だけ落ちちまうのが、だ」 「僕を恋人として見れる確率って、どれくらいある?」 「……五分五分だな」 「それだけあれば十分」 「玲史」  笑みを浮かべる僕に、真剣な眼差しを向ける紫道。 「お前、本当に本気なんだな?」  今さら。 「うん。嘘っぽい?」 「いや……遊び相手にゃ困ってなさそうなお前が、わざわざつき合うことにしてまで俺を……ってのが、不思議でよ」 「きみはトクベツなんだってば」  腑に落ちない様子の紫道をジッと見つめる。 「僕の本気を見たいの?」 「目で見えないもんだろ」 「まぁね……あ」  コレ、引かれるリスクあるけど……やっちゃおうかな?  紫道前にして、思いのほか欲情ハイレベルだし。  懇願させるプレイ中でも滅多にしないけど……リアクション、見てみたいし。 「オナニーは必要な処理って感じで、僕はあんまり熱くならないんだけどさ」 「は……!?」 「ほら、僕の場合……実際に目の前で、もだえてほしがる男の姿と声が快感だから。自分で抜くのはイマイチなの」  唐突な話題にとまどってるのか、半開きの口で目を瞬く紫道にかまわず。 「落とした男とかセフレとか。今から犯せるって場面だと気分上がって勃つけど、その場だけ。ひとりの時の興奮剤にはならないんだよね」  ここから本題。 「でも、きみは別」  紫道と目を合わせたまま、ズボンのベルトに手をかけた。 「想像だけでその気になるよ……見て」  ベルト外してファスナー下ろして、半分勃ったペニスを取り出した。

ともだちにシェアしよう!