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018 そのクズに、殺意が湧く:R
「一度だけ……じゃないよね」
確認で聞いた。
「週の半分くらい、2ヶ月ちょっとの間か」
紫道 の答えに、不快感が湧き上がる。
脅されてつき合った相手にセックスを要求されて、応じた……好きじゃない男に、嫌々抱かれてた……。
「きみが屈する脅しって何?」
紫道は黙ったまま。笑みの消えた顔を僅かに歪めて。
答えたくないなら別にいい。
話題チャンジするならそれでいい。
身体を喜ばせるスキルは持ってるつもりだけど。深入りして、心の傷とか闇とか……見せられても、どうしていいかわからない。
だから。
紫道が口を開くのを待つ。
何を聞いても、紫道をほしいのは変わらない。
それだけはわかってる。
「中学は、弓道部に入ってた」
紫道が話し始める。
「へぇ、かっこいいね」
「家は居合系の道場をやってる」
「父親が師範なの?」
「当時はな。今は引退して叔父が教えてる。入学した時、剣道部に入れって言われたが……反発して弓道にした」
「紫道にも反抗期あったんだ」
笑みを漏らすと、紫道もちょっとだけ口元をほころばせた。
「うちはいろいろ厳しかったが、俺は……おとなしく言うことを聞くいい子だった。基本的にな」
「争うのとか、嫌いそうだもんね」
「どうしてもってこと以外は、相手に譲るほうが楽だ……そう思ってた」
紫道が深呼吸した。
「中3の夏、部活の帰り。学校の裏手の森みたいになってるほうから、助けてって感じの叫び声がした……女の」
「行ったの?」
「ああ」
「ひとりで?」
「一緒にいた友達と2人だ。近づいて、道からすぐの小屋に入る5人を見た。男が4人。嫌がる女がひとり」
輪姦……か。
「目的が何かわかって、助けに?」
「……見ないフリは出来ないだろ」
「まぁね。時と場合と人によっては、自分で行かない場合もあるけど」
「あの時は、ほかに人気もなかった。それに、女は高校の制服着てたが男のうち2人は……同級生だった」
「知り合い?」
「ちょっとな。素行が悪くて有名なヤツらだ。正直、関わりたくなかったが……俺たちは小屋に踏み込んだ」
4対2……。
「入口にいたヤツを蹴り飛ばして、女を押さえつけてた2人を引っ剥がして……どうにか倒した。女はやられずに済んだが、もうひとり……ケンカにゃ参加しなかったヤツが、スマホで動画撮ってたんだ」
「レイプまでいかなくても、女の裸撮られてたの? それで脅し?」
「……俺はそこまでお人好しじゃない」
紫道が僕を見つめる。
「撮られてたのは、俺がヤツらを殴り倒すところだ」
「え?」
「次の日、学校で……殴られたヤツの血まみれ顔で終わる動画を見せられた。女は映ってない。まぁ、ケンカの理由がどうでも同じだが」
同じ?
何がマズいの?
要領を得ない僕に、紫道が乾いた笑みを見せる。
「未成年でも中3なら、暴行罪や傷害罪になる。学校に知れりゃ部活動停止で大会にも出られねぇ、お前のせいでな……そう言われた」
「女襲うヤツらが警察駆け込むとか、あり得ない」
「警察沙汰にされることはないだろうが、暴力で部活動停止はある。大会出場停止だか辞退だかも、よその部が前の年に食らってたからあり得る」
「ただのケンカじゃなくて、人助けなのに」
「言ったろ。理由は何でも、暴力振るって人にケガさせりゃ処分対象……運動部ってのはそうだ。俺が退部して済むもんでもない」
そんな理不尽……スポーツマンだから? 連帯責任? 学校の部活ってそういうものなの?
「一緒にいた友達は?」
「弓道は上手くて正義感のあるヤツだが、ケンカには慣れてない。動画でやり合ってるのは俺で……そいつ、高遠 康志 が呼び出したのも俺だけだ」
「……それが脅しのネタなんだ。部活のために」
あ。すごく不機嫌な声出た。
「ほかにやりようなかったの? チャラに出来る弱み握るとか。その女に証言してもらうとか」
だって、不愉快だもん。
そんな脅しで言いなりになっちゃうなんて。
じゃなくて。
そんなちゃちなコトで紫道を脅したそのクズに、殺意が湧く。
さらに。
そんな理不尽なセックス強いられた苦い過去、知らずに軽口叩いてた自分にも腹が立つ。
「俺のせいで部活動停止にさせられないだろ。秋の大会目指して練習してんだ。何言われても……聞くしかない」
紫道が静かに息を吐いた。
「そう決めたのは俺だ」
「そいつ、何て言ったの?」
努めて、ニュートラルな口調で。
「ただやらせろ、じゃないんでしょ?」
「俺とつき合えば動画は消してやる……ってな。秋の大会まで、部が処分されなけりゃいい。その時はそれしか考えなかった」
「ちゃんと意味、わかってたの?」
俯いた紫道が首を横に振る。
「お前みたいな男を屈服させるのは楽しそうだ、つってたからよ。ただのパシリっつうか、下僕みたいなもんだと思った」
「なら、俺の奴隷になれとか言うはず」
「……つき合うってのが女相手と同じ意味だとは、思わなかった。康志は女好きだったし、俺はそういうのに疎くて……」
顔を上げた紫道が、僕を見る。
「やりたいってのが、冗談じゃなくマジだってわかって……抵抗する気になりゃ出来たが、逃げるわけにゃいかねぇだろ」
「で、やられたの。何度も」
「……そうだ」
「感じた?」
笑顔で尋ねた。
「嫌々でもイケたでしょ?」
答えが帰ってくる前に、問いを重ねる。
「その男がヘタクソなら時間かかったかもだけど、自分からほしがるようにもなった?」
「……やめろ」
「2ヶ月? アナルでイクの慣れたとこで終わりかぁ……もっと続けたかったんじゃない?」
「やめてくれ……」
「確かに屈辱だね。脅されて仕方なく、だったのに……身体がねだるようになっちゃうなんて……」
「玲史!」
立ち上がった紫道が僕の前に来て、手を伸ばした。
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