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017 なんか……ワクワクする:R

 土曜日の午後1時53分。  学園寮の玄関で、着いたよってメッセージをに送り。来客リストに記入してる間に紫道(しのみち)が迎えに来た。 「おはよ」  ちょっと息切らしてる紫道に微笑む。 「おはよう……もう午後だが」 「1年から一緒なのに、休みの日にこうして会うの初めてだね」 「そうだな」  紫道も微笑んだ。  ほんの少しだけ、ぎこちない。緊張してるのかな。  気分を上げつつ靴を脱いで上がり、階段へ。 「俺の部屋は東棟の2階だ。寮には来たことあるのか?」 「1年の終わり頃、3年の先輩の部屋に行ったよ。1回だけ」  答えた僕をジッと見て。フイッと目を逸らす紫道が、何を考えたかわかる。 「ずっと僕を、んー……気に入ってくれてた人に、最後に一度ってお願いされて。セックスした」  考えただろうことを言った。  チラッとこっち見た紫道の動揺した顔。 「誰も知らないんじゃないかな。ちゃんと声、外に漏れないようにしたし。そのあと学校で会うこともなかったし」  実は卒業したその人と。2回ホテルにも行ったんだけど、これは言わず。 「同室の子は2年? 今日いるの?」 「サッカー部の1年だ。部活でいない」 「そ。ちょうどいいね」  僕と合わせた目を僅かに見開く紫道。  警戒した?  期待した?  でも。  今日は手を出さないから。  安心してってふうに笑みを見せた。 「ここだ」 「おじゃましまーす」  紫道の開けたドアから中へ。  共有部分のキッチンを通り、個室へ。 「へーキレイにしてるじゃん」  散らかってない、片付いた部屋。 「大して私物がないからな」  僕の後ろで、ドアが閉まる。  ラグの敷かれた床は、二人で腰を下ろして向かい合えるスペースがあるけど。 「ベッドに座っていい?」  聞くと。 「ああ……」  頷いたから、ベッドに腰かけた。  紫道は隣には来ず。デスクのイスをこっちに向けて座る。 「玲史……話ってのは……」 「きみが先。おとといの続き。僕に聞いておきたいことあるんでしょ?」  これにも、紫道は頷いた。 「ああ。お前、俺に……」  何でも正直に答えるつもり……だけど、何だろう?  そんな真剣な顔して。 「俺を、誘うのは……抱いてみたいってのは……ただの遊びか? つまり、どんなもんか……好奇心と性欲だけか?」 「それだけのわけないじゃん。紫道が一番好みなの」  コレ聞く意味って何……? 「好奇心っていうか、興味が1年も続くの初体験だし。性欲だけなら、適当な男つまみ食いすれば足りるし」  もしや。  ついにその気になってくれた……のかな? 「僕とのセックス、きみが気に入ってくれたら続けられるよ。ただの遊びじゃなく」  気に入るってより、清崇みたいにハマる状態にするんだ。 「セフレってやつか?」 「んーもともと友達だから、そこに肉体関係もプラスでお得な感じ?」  微かに眉を寄せた紫道が、小さく溜息をついた。 「恋愛感情は要らないんだな?」 「あったほうが気持ちいいって聞くけど。なくても楽しめるし、必要だったことないしね」 「そうか……」 「きみも恋愛経験なしで、セックスはあるんでしょ?」 「……そう、だな」  俺に向ける紫道の瞳がひどく淋しげで、何か胸にくる……押し倒したい!  でも。  ガマンガマン。  今日は絶対に手出さない。  もちろん、紫道が求めてきたら応じるけどね。 「ねぇ。この流れって、僕の誘い受けてもいいかなーってとこに向かってる?」 「いや、そうじゃねぇ……」  僕の言葉を焦って否定した紫道が。 「いや、半分くらいはそうだ」 「え?」  意を決したように僕を見つめる。 「思い始めた……前向きに、考えてみようか……ってな。お前が本気でやりたいなら、だが」 「いつも本気で誘ってるってば。遊びで一度だけ、とは思ってないよ」  ほんとに。  自分でもどうしてかわからないけど、紫道はほかの男と違う。   「俺が期待はずれで、お前が気に入らない可能性もある」 「あ、それは大丈夫。僕が気に入る身体に仕込むから」 「そりゃ……怖いな」  紫道が怯んだ表情で口角を上げる。 「オーケーするには、覚悟が要る……か」 「まだ、ない?」  見つめ合う。  10秒経過。  すぐに逸らすだろうって思った紫道の視線は、僕に留まったまま。 「もう少し……考えさせてくれ」  先に口を開いた紫道が立ち上がる。 「飲み物取ってくる。お茶か甘いのか炭酸か、スポーツドリンクか……」 「甘いの」  頷いて、紫道が個室を出てく。  あー、なんか……ワクワクする。  僕の欲望に、前向きに考えるって……初めてだ。  しかも自分から。  予想外に嬉しいな。  これなら、僕の話でもうひと押し。  あとは、本気を見せれば……。 「どっちがいい?」  紫道が冷蔵庫から持ってきたのは、ミルクティーとカフェラテのボトルだ。 「こっちにする。ありがと」  ミルクティーを選び、さっそく開けて飲む。紫道も、カフェラテをゴクゴク飲んで息をつく。 「甘いな」 「嫌い?」 「普段はあんまり飲まないが、今は甘くていい」  さっきと同じ、デスクのイスから僕に向き合う紫道。 「玲史。お前の話ってのは?」 「いっこ提案があるんだけど……その前に聞かせて、きみの経験」  僕同様、恋愛経験なしでセックスはある。  僕と違って、遊びでやらないっぽいのに……ちょっと気になったんだ。 「そんなの聞いてどうする」 「きみのこと知りたいから」  紫道の瞳が揺れる。 「楽しい話じゃないぞ」 「……強姦された?」 「つき合ってたヤツに……」  言葉を選ぶように間を置いて、紫道が続ける。 「好きだってのは一切ないヤツと、脅されて…仕方なくつき合うハメになった。つき合ってるからにはやらせろって、気持ちとしてはムリヤリだ。心底嫌だったが……拒否出来なくてな」  無理に作ったのがわかる紫道の笑みに、何故か胸がぎゅっとした。

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