17 / 167
017 なんか……ワクワクする:R
土曜日の午後1時53分。
学園寮の玄関で、着いたよってメッセージをに送り。来客リストに記入してる間に紫道 が迎えに来た。
「おはよ」
ちょっと息切らしてる紫道に微笑む。
「おはよう……もう午後だが」
「1年から一緒なのに、休みの日にこうして会うの初めてだね」
「そうだな」
紫道も微笑んだ。
ほんの少しだけ、ぎこちない。緊張してるのかな。
気分を上げつつ靴を脱いで上がり、階段へ。
「俺の部屋は東棟の2階だ。寮には来たことあるのか?」
「1年の終わり頃、3年の先輩の部屋に行ったよ。1回だけ」
答えた僕をジッと見て。フイッと目を逸らす紫道が、何を考えたかわかる。
「ずっと僕を、んー……気に入ってくれてた人に、最後に一度ってお願いされて。セックスした」
考えただろうことを言った。
チラッとこっち見た紫道の動揺した顔。
「誰も知らないんじゃないかな。ちゃんと声、外に漏れないようにしたし。そのあと学校で会うこともなかったし」
実は卒業したその人と。2回ホテルにも行ったんだけど、これは言わず。
「同室の子は2年? 今日いるの?」
「軽音部の1年だ。部活でいない」
「そ。ちょうどいいね」
僕と合わせた目を僅かに見開く紫道。
警戒した?
期待した?
でも。
今日は手を出さないから。
安心してってふうに笑みを見せた。
「ここだ」
「おじゃましまーす」
紫道の開けたドアから中へ。
共有部分のキッチンを通り、個室へ。
「へーキレイにしてるじゃん」
散らかってない、片付いた部屋。
「大して私物がないからな」
僕の後ろで、ドアが閉まる。
ラグの敷かれた床は、二人で腰を下ろして向かい合えるスペースがあるけど。
「ベッドに座っていい?」
聞くと。
「ああ……」
頷いたから、ベッドに腰かけた。
紫道は隣には来ず。デスクのイスをこっちに向けて座る。
「玲史……話ってのは……」
「きみが先。おとといの続き。僕に聞いておきたいことあるんでしょ?」
これにも、紫道は頷いた。
「ああ。お前、俺に……」
何でも正直に答えるつもり……だけど、何だろう?
そんな真剣な顔して。
「俺を、誘うのは……抱いてみたいってのは……ただの遊びか? つまり、どんなもんか……好奇心と性欲だけか?」
「それだけのわけないじゃん。紫道が一番好みなの」
コレ聞く意味って何……?
「好奇心っていうか、興味が1年も続くの初体験だし。性欲だけなら、適当な男つまみ食いすれば足りるし」
もしや。
ついにその気になってくれた……のかな?
「僕とのセックス、きみが気に入ってくれたら続けられるよ。ただの遊びじゃなく」
気に入るってより、清崇みたいにハマる状態にするんだ。
「セフレってやつか?」
「んーもともと友達だから、そこに肉体関係もプラスでお得な感じ?」
微かに眉を寄せた紫道が、小さく溜息をついた。
「恋愛感情は要らないんだな?」
「あったほうが気持ちいいって聞くけど。なくても楽しめるし、必要だったことないしね」
「そうか……」
「きみも恋愛経験なしで、セックスはあるんでしょ?」
「……そう、だな」
俺に向ける紫道の瞳がひどく淋しげで、何か胸にくる……押し倒したい!
でも。
ガマンガマン。
今日は絶対に手出さない。
もちろん、紫道が求めてきたら応じるけどね。
「ねぇ。この流れって、僕の誘い受けてもいいかなーってとこに向かってる?」
「いや、そうじゃねぇ……」
僕の言葉を焦って否定した紫道が。
「いや、半分くらいはそうだ」
「え?」
意を決したように僕を見つめる。
「思い始めた……前向きに、考えてみようか……ってな。お前が本気でやりたいなら、だが」
「いつも本気で誘ってるってば。遊びで一度だけ、とは思ってないよ」
ほんとに。
自分でもどうしてかわからないけど、紫道はほかの男と違う。
「俺が期待はずれで、お前が気に入らない可能性もある」
「あ、それは大丈夫。僕が気に入る身体に仕込むから」
「そりゃ……怖いな」
紫道が怯んだ表情で口角を上げる。
「オーケーするには、覚悟が要る……か」
「まだ、ない?」
見つめ合う。
10秒経過。
すぐに逸らすだろうって思った紫道の視線は、僕に留まったまま。
「もう少し……考えさせてくれ」
先に口を開いた紫道が立ち上がる。
「飲み物取ってくる。お茶か甘いのか炭酸か、スポーツドリンクか……」
「甘いの」
頷いて、紫道が個室を出てく。
あー、なんか……ワクワクする。
僕の欲望に、前向きに考えるって……初めてだ。
しかも自分から。
予想外に嬉しいな。
これなら、僕の話でもうひと押し。
あとは、本気を見せれば……。
「どっちがいい?」
紫道が冷蔵庫から持ってきたのは、ミルクティーとカフェラテのボトルだ。
「こっちにする。ありがと」
ミルクティーを選び、さっそく開けて飲む。紫道も、カフェラテをゴクゴク飲んで息をつく。
「甘いな」
「嫌い?」
「普段はあんまり飲まないが、今は甘くていい」
さっきと同じ、デスクのイスから僕に向き合う紫道。
「玲史。お前の話ってのは?」
「いっこ提案があるんだけど……その前に聞かせて、きみの経験」
僕同様、恋愛経験なしでセックスはある。
僕と違って、遊びでやらないっぽいのに……ちょっと気になったんだ。
「そんなの聞いてどうする」
「きみのこと知りたいから」
紫道の瞳が揺れる。
「楽しい話じゃないぞ」
「……強姦された?」
「つき合ってたヤツに……」
言葉を選ぶように間を置いて、紫道が続ける。
「好きだってのは一切ないヤツと、脅されて…仕方なくつき合うハメになった。つき合ってるからにはやらせろって、気持ちとしてはムリヤリだ。心底嫌だったが……拒否出来なくてな」
無理に作ったのがわかる紫道の笑みに、何故か胸がぎゅっとした。
ともだちにシェアしよう!