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016 わからない、まだ:S
「友達としてしか見てねぇなら、単に顔かたちが好みなんじゃねぇの?」
少し考えるふうに間を置いて、佑 が聞く。
「ビジュアルだけ使ってるとか」
「いや。今さらだろ。最近急に顔が好きとかない」
玲史のあの外見は好ましいと思ってるが……1年分成長はしてても、1年前とそんなに変わってないだろ。
「最近? 何かトリガーあったはず。あっちがお前をエロい目で見始めたとか?」
「エロい目ってのは、少なからず……もとからだ。どこまで本気かわからないが、去年からちょくちょく言われてる……抱かれてみないかってな」
「は!? んじゃ、悩むことねぇじゃん! 受けろよソレ」
さらに身を乗り出して、佑がノリノリで促してくる。
「妄想してオナってんだろ? 現実に出来んだぞ? やっちまえ」
「待て。俺は好きじゃないヤツとは、しない。遊びだセフレだってのは……嫌なんだ」
「でもお前、好きなヤツいたことねぇなら……わかんねぇじゃん。好きかもよ?」
和希にも、同じこと言われたな。
玲史を好き……なのか俺は?
わからない、まだ。
「想像しちまうんだろ? ほかにオカズにしてたヤツ、いんの?」
「ほかはいない……けど」
「ほら。トクベツじゃん」
「想像してみて……っつわれてからだ。こうなったのは」
そうだ。わかってる。
先週のLHRから。止めようもなく、脳内で勝手に繰り返す。
玲史に攻められる自分……。
「で、身体も勝手に反応しちまう。学校ん中じゃまだ平気にしてられるが、自分の部屋じゃ……」
「妄想爆発? 普通じゃね? オーケーもらうまで俺、毎日平均3回は頭ん中でシンのこと犯してたぜ」
「そりゃ、お前は先輩にホレてるから……」
「だから。とりあえず否定すんのやめてみれば? 好きかも―って思うの、何もマイナスねぇだろ」
佑の言ってることはもっともだ。
理解出来る。
ためらうのは。
「好きだったらどうするんだ。一度認めりゃ、消せなくなっちまうかもしれない」
「何で消すの? あっちもその気あんならいいじゃん」
「……ない。玲史は俺を好きで誘ってるんじゃない、と思う」
「へ? やりたいだけってこと?」
「たぶんな」
「だから何だよ。十分脈あんだろ。俺なんか最初に告った時、瞬殺されたぜ。『キスするの想像するだけで気持ち悪い』ってよ」
「そりゃ……」
キツい。
それでも諦めなかったのはすごい。
「今だから言える。あん時はお前にも内緒にしてた。マジ落ち込んだし。仕方ねぇ、諦めろって言われたくなくてさ」
「……そうか。報われたな」
「だろ? つまり。お前とやる気があるなら、あとはホレさせりゃいいだけじゃん」
「難しい。俺もだが、玲史も恋愛はしたことないそうだ」
佑が笑う。
「はは……落としがいあんな、お互い」
「……セックスの経験値は高そうだが」
「なら、期待しとけよ」
「俺は……」
「遊びじゃなく、ちゃんとおつき合いするならオッケーって言えば?」
つき合う……か。
何とも思ってないヤツと、望まないつき合いしか経験がないせいか。うまくイメージが湧かない。
そもそも。
恋するだとか、好きになる前にそういう関係になるってのに……いいイメージがない。
「好きとは言えねぇぞ。今は、まだ」
「だとしてもさ。お前がやっと気になるヤツ……好きかもしれねぇってヤツ、出来たんだ。これでも、ちょっと心配だったっつーか……」
佑が短い髪を両手で梳く。
「お前が男とつき合えば、セックスのこと聞きやすいじゃん? 俺まだわかんねぇとこ多いしよ」
「佑……」
前に過去の話をしたからか。
俺に経験のない恋の相談は散々されたし、セックスの相談もされたが……ネコ目線で実践的な生々しいのは、ほとんどなかった。
「気を遣わせたな。ありがとう」
「やめて。照れる」
「また、話聞いてくれ。お前も何でも話せよ」
佑に感謝しながら、明日を思う。
一歩、進んでみるか。
どこに向かおうが……立ち止まったままでいるのは、もう十分だ。
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