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021 リスク……なのか?:S
月曜に教室で顔を合わせた玲史は、いたって普段通り。それに倣って、土曜のことは何の影響もなかったかのように接してるが……どうしても意識しちまう。
性欲は強くても、対人のエロ方面に消極的な俺の経験値は低い。
玲史の言動が巧妙に練られた策なら、大成功だ。
もっとも。おととい部屋で会って話をする前から、玲史が気になってたのは事実。
だから、軌道修正は不要だと信じたい。
6限目のLHRで、学祭でのうちのクラスの出し物の詳細を詰めた。
エスコートつきの謎解き脱出系、ゾンビのお化け屋敷の役割分担……接客が苦手だから、ゾンビ役にした。接客が得意そうな玲史も、お化け役がやりたいって言ってた通りゾンビ役。
必要なことを決めたあと。お化け屋敷の仕掛けを考えるフリータイムは教壇に腰を下ろし、玲史と將悟 と3人で話し合いだ。
幼馴染みの涼弥と恋人同士になった將悟に、玲史が軽口をたたく。その流れで、玲史との約束の話題へ。
『お前を見倣ってというか……お前と涼弥見て、俺も先に進むことにした』
將悟にそう言ったのは、2人を羨ましく思ったからだ。
玲史が気になるのと同じタイミングで友達が男とつき合い始めたら、きっかけのひとつとして後押しになるだろ。
將悟はクラスで数少ない親しい友達で、たぶん……男にレイプされそうになったトラウマがある。
その上で、男とのセックスに前向きになれるのは、涼弥を好きだっていう気持ちか。涼弥が自分を好きだっていう安心感みたいなのもあるか。
俺と玲史に、そういうのはないが……まぁ、もう踏み出したからな。行くしかない。
「二人とも……!?」
風紀委員に立候補するのを聞いて驚く將悟に。
「僕が風紀委員になったら、つき合ってくれるって」
玲史が嬉しそうに俺との約束を話す。
「じゃあ、紫道 がなったら?」
「……俺がいいと言ったこと以外はしない」
これも約束のうちなはず。
このために。俺も絶対、風紀委員にならないとな。
「あー楽しみ。待ちきれないよ。それまでに誰かつままないと」
「俺はやめろ。つーかさ。紫道に悪いと思わないのか?」
玲史のコメントに、將悟が眉を寄せる。
「紫道は好きだけど。まだフリーだもん」
「紫道は? 自分を好きだって男が、ほかのヤツとって……気分悪いだろ?」
悪びれない玲史から俺へと視線を移す將悟に聞かれて、考える。
將悟は、玲史が俺を恋愛的な意味で好きだと思ってるらしいが……微妙だ。俺自身の気持ちも同じ。
將悟と涼弥の『好き』の基準で見れば、全然だろうな。
だからか、気分悪くする筋合いじゃない。
けど、まぁ……愉快じゃない。
けど、そうも言えないだろ。
「よくはないが……こっちがハッキリしてないからな。嫌ならその前に動けばいい話だ」
玲史がほかの男とやる前に俺が相手する……ってことは、まず出来なそうだが。
「もし、紫道だけ風紀になったら?」
「その時に答えを出す」
「結果は同じだよ」
ニヤリとして、玲史が言い切る。
「どっちかだけでも。どっちもダメでもね」
「お前のその自信は、どこから来るんだ?」
俺の態度。わかってるが、聞いた。
「ちょっとしかその気がないなら。この僕とつき合うリスク、負わないでしょ」
リスク……なのか?
前向きになってる俺の気持ちを横向きにするような発言だな。
「キミが想像する10倍はすごいよ? 僕の普通は」
自分のした想像を思い浮かべそうになって、急いで打ち消し。ごまかすように微笑んだ。
「約束したからには、一応の覚悟はしてる。俺の意思は……五分五分だな」
「いいのか? その……」
將悟が何を言いたいか、予想出来る。
S嗜好の男とつき合うってことは、サディスティックなセックスにつき合うことになるんだぞ?
今までのエロトークで、玲史がどSなのは知ってる。
自分でも認めてるし、先週もSMグッズの話してたしな。心配するのはわかる。
けど、もう。
それはかまわない……ていうより。ソレ込みで、玲史だ。
「お前は、涼弥が玲史と同類だったら別れるか?」
將悟に尋ねた。
「……別れない。納得」
「まぁ、半月じっくり考えてから決める」
「ん。俺は、2人を応援するよ」
頷いて微笑む將悟に。
「と、いうわけで。ごめんね。將梧」
軽い調子で、玲史が詫びる。
「立候補出なかったら、生徒会選挙のほうよろしく」
「は……!?」
声を上げて驚いて。すぐにその意味を理解した將悟が、救いを求めるような瞳で俺を見る。
俺か玲史が風紀に立候補を認められれば、うちのクラスから生徒会役員選挙への候補者はひとりでいい。
ただし。立候補者がいなけりゃ、学級委員から出すことになる。風紀委員になる予定の俺と玲史は出られない。
つまり、將悟が出るしかない。
「悪い。頼むな」
本心で言うと。
楽しそうに笑みを浮かべる玲史を見やり、將悟が諦め顔で溜息をついた。
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