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022 遊びじゃないよ:R
「一緒に帰ろうよ」
SHR後、紫道 の席に行って声をかけた。
「帰るって……お前は駅だろ」
とまどい顔の紫道にニコっと笑い。
「寮まで送ってあげるの。つき合う前にリハーサル」
「リハ……」
ちょっとうろたえた様子で、紫道が僕を見つめる。
「部屋に……来るのか?」
「ううん。一緒に帰りたいだけ。来いって言われれば行くけど……」
「いや、言わない……つか、あ……つき合うまでは、もう……部屋では会わないほうがいい」
「期待しちゃう?」
「バカ言う……な」
さらにうろたえる紫道。
うん。いい感じ。
土曜のアレが効いてるみたい。
あのあと、ちゃんと僕で抜いてくれたかな?
前向きに考えて風紀の約束オーケーしたんだし。
つき合う覚悟してるらしいし。
僕のオナニー見て、勃ってたし。
將悟 には、俺の意思は五分五分って言ってたけど……90パーセントくらいあるよね、客観的に見て。
「風紀委員決まるまで、襲わないから。僕のこと信用してるでしょ?」
「そりゃしてるが……」
微妙な表情で、紫道が言い淀む。
「ん?」
「……何でもない」
「行こ」
ここは追求せず。僕たちは教室を後にした。
学園から寮までは、徒歩5分。
ゾンビが出てくる映画やドラマの話と。生徒会役員選挙に出ることになるだろう將悟に申し訳ないねって話をしただけで到着した。
「悪いなぁとは思うけどさ。選挙出たら、將悟は当選するでしょ」
寮の入口の脇に寄り、足を止める。
「そしたら僕たちも風紀でやりやすそう。ちょうどいいよ」
僕のコメントに、紫道が苦笑する。
「自信満々だな。今の風紀委員に認められなけりゃ、立候補してもなれないんだぞ」
「どうやって決めるのかな。試験ってことはないだろうし、委員長と面接?」
「そんなとこだろ。去年まではスカウト制だったが、立候補制となると……どのくらい集まるかにもよるか」
「風紀のメンバーって全然知らない。うちのクラスにいる?」
生徒会役員は選挙で、広報でも周知されるから顔と名前わかるけど。決まった時にチラッと掲示板で名前しか公表しない風紀委員は、クラスメイトや知り合いじゃないとわからない。
あとは噂で聞くのと、自分が悪いことして捕まって顔合わすくらいか。
「いない。2年は3人だ」
「へぇ、詳しいね」
「毎年、寮住まいの1年から選ぶことになってるんだ。お前が知ってるヤツだと、A組の柴崎……」
「誰ソレ……って。あのナンパくんか」
思い出した。
去年、しつこく誘ってきた男。クラス違ったからたまにだけど、行き帰りや移動教室とかで会うたび。
『俺のこと試す気になったか? 期待は裏切らないぜ』
こんな感じで。
『僕に抱かれるなら期待するけど?』
こんなふうに返してて。
僕がタチだって信じないから。もうベッドまで行って突っ込んじゃおうかなーって、チラッと思った。
ちょっと好みではあったしね。
でも。
いざとなって完全ノーされると。ベッドまでは合意でも……相手を押さえつけて抱くのは、レイプになるじゃん?
抱かれる気はサラサラないし。あとあと、よけいなこと学園に広められたら面倒だし。
だから結局。馴れ馴れしく肩組んできた時に、技かけて床にのして。力づくは効かないのと、その気はゼロなのを示して。
それ以来、狙われず。
「うちの岸岡並に軽いヤツだよな」
呆れたふうに笑う紫道に、聞きたくなった。
「ねぇ。きみから見たら、僕も軽い? 恋愛なしでしかセックスしたことないから、遊び人?」
「お前は……」
答えを探すように、紫道の目が泳ぐ。
「軽いノリでナンパしまくったりしないだろ」
しまくってはいない、けど。たまにする。
気に入ればセフレ関係にもなるし。
「誰かに迷惑かけたり、文句言われるわけでもないしよ」
「そうだけどさ」
うーん……なんか。なんかモヤるっていうか。
「さっき、將悟に。僕がほかのヤツにって気分悪いだろって聞かれて、嫌ならその前に動けばいいって言ったじゃん?」
「ああ……」
「動かないの?」
見つめ合う。
「約束しただろ。風紀の結果が出るまでは……動かない」
20秒近く間を空けて答える紫道。
「まだ、友達だ」
「そっか」
微笑んでみるも。
何だろうコレ……期待はずれみたいな、残念なような。
足りなくて、冷えた感じ。
サミシイ……?
馴染みない感情だから、違うかも。
淋しいって感覚……忘れちゃってるから。
「玲史」
「ん、何?」
ちょっとぼーっとしかけてた。
ズレてた視点をフォーカスすると、何故か紫道が深刻そうな顔してる。
「お前のこと……ちゃんと考えてる。約束は守るから……」
約束……か。
「お前がどういうつもりだとしてもだ」
「遊びじゃないよ」
言い切った僕を見る紫道の目が、僅かに見開いた。
「そうか……」
あ。いい笑顔。
「そろそろ帰ろうかな。今度はどっかでゆっくり話しよ」
送って長居するくらいなら、ベタに駅前のカフェとか行くべきだよね。
「ああ。駅まで送るぞ」
「え!?」
素で驚いた声を上げると。自分のセリフがおかしいのに気づき、紫道が焦ったふうに短髪を両手で掻き上げた。
「あ……送ってくれたんだったな」
「うん。女の子じゃないし。女でも、まだ早い時間だし。万が一襲われそうになっても、返り討ちに出来るし」
「わかってる」
「また明日ね」
今、手を振る僕も。
いい笑顔だといいな。
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