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023 思い上がるのは危険だろ:S

 水曜日。   締切の今日になっても、うちのクラスに立候補者は出ず。  風紀委員立候補者の欄に、俺と玲史の名。生徒会役員立候補者の欄に自分の名を書いた届け出を手に、將悟(そうご)が溜息をついた。 「俺、マジで選挙出るの嫌なんだからな。風紀……ちゃんと受かれよ」 「まかせて」  自信ありげな玲史から俺へと視線を移し、確認するように片方の眉を上げる將悟。 「本気でなるつもり、なんだよな? 2人とも」 「大丈夫だ」  風紀委員になってかまわない。  なったらつき合う約束が果たされてもかまわない……って意味を込めて頷いた。 「もちろん。將悟も役員になれるから、よろしくね」 「やめろ。その呪い」  無邪気を装って微笑む玲史に顔をしかめ、將悟が教室を出ていく。見るからに肩を落としたその姿に、少なからず罪悪感が……。 「ちょっと。気に病まないでよ。僕たちが風紀委員にならなかったら、3人のうち2人。紫道(しのみち)だけ風紀になっても、將悟が僕かどっちか。選挙にはどうせ出るハメになるの」  玲史の言う通りだが、俺たちが賭けに利用してるのが後ろめたい。 「將悟は杉原とシアワセなんだから、大丈夫」 「そう……思うしかないか」 「それより。明日の昼休みの、風紀の試験だか面接。なんか情報、現委員のナンパくんに聞いといたほうがいいんじゃない?」 「柴崎より、仲いいヤツがいる。ひとりは確保しろって言われてるらしくてな。だから、立候補を考えたんだ」 「寮の子で? 誰?」 「吾妻(あずま)(たすく)。去年、同部屋だった」 「ふうん……知らないなぁ」  玲史の眉間に微かな皺。 「そういえば、寮の話とかあんまり聞いたことなかったね。仲いいんだ」 「ああ……」  鋭く俺を射る玲史の視線に。  何でも話せる、親友だ……って続けるのはやめにした。 「紫道のこと、これからもっといろいろ教えてもらうとして。なんか言ってた? 風紀に必要な資質とか」  佑についてはさらにツッコまれず、ホッとして。 「信頼出来て暴力にびびらないことと、性欲で人襲ったりしないことが条件みたいだ」  あいつに聞いた情報を言った。 「それだけ? 候補多かったら絞れないじゃん」 「そうだな」 「委員長ってゲイ? ノンケ?」 「知らないが、関係あるのか?」  性指向で選別するっての、あり得るか? 「風紀が人襲っちゃダメなのは当然だけど、学園内で彼氏とエロいことするのもアウトでしょ。だからノンケのほうが有利……」  なるほど。 「でもないか。男同士のエロ発見した時、ノンケのほうが引いちゃうもんね。関係ないかも」 「確かに……」 「一応、委員長副委員長あたりのこと聞いといてよ。その佑くんに」 「わかった」  玲史がまた、俺をジッと見つめる。 「何……だ?」 「いい男? 佑くん」  意外な言葉、だった。 「ああ、いいヤツだぞ。まっすぐで友だち思いで、裏表がない」 「……そ。僕と全然違うタイプだね」  不機嫌そうな玲史。  気になるのか……!?  俺が親しくしてる男のことを……?  まさかな。  けど。 「佑は、長く思い続けてやっとつき合い始めた彼氏に夢中だ」  言っておこう。  もし。  本当に。  少しでも。  欠片でも。  玲史が俺に恋愛感情ってやつを持ってるなら。  嬉しく思っちまう自分がいる……ような気がする。  だからか。  誤解されたくない。これがひとりよがりの心配だとしてもだ。  玲史とのつき合いを前向きに考えてるって言ったからには、あやふやな要素はなくしたい。  色恋に疎い俺に、恋愛かもわからない感情の駆け引きは無理だからな。 「そっか。ならいいや」  フフッと笑う玲史を見て。  安心したのか?  嫉妬心みたいなのがあったのか?  佑に俺を取られたくない、みたいな……。  ストップ!  今のはナシだ。考えるな俺。  相手は玲史だぞ?  思い上がるのは危険だろ。 「どうしたの?」  頭の中の否定で首をブンブン横に振ってた俺を、玲史が覗き込む。 「何でもない。帰るか……」 「うん。今日は用事あるから、校門までね」 「そう……か」  用事……いや、何の用事でも全然いいんだが……つい、エロ方面に想像しちまう。  玲史だからな。  俺のほうも。学園でのコイツ以外はほとんど知らない。  親兄弟の話も聞かないし。  ガキの頃の話も聞かないし。  まぁ、映画やマンガや音楽や食いもんの話は普通にする。  あとは、たまにエロトークになった時の……ノーマルじゃないプレイの内容とか。  性嗜好とかの話くらいだ。  玲史がこれからセフレと会おうが、ナンパしに行こうが。俺には関係ないはずだ。  けど、気にはなる。  嫉妬心じゃない……よな?  今さっきの俺みたく。玲史も、そう考えてるなら。  俺が誤解しないように何か言ってくれ。  誤解じゃなく正解でもいい。モヤモヤさせるな。自分がわからなくて嫌になる。  今まで平気だったもんが平気じゃなくなるのは嫌だ。 「明日は一緒にゆっくりしよ」 「ああ……」  俺の胸の内を知ってか知らずか。  玲史が用事の内容を言うことはなかった。

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