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033 恋って言ったか?:S
翌金曜日。
いつもより早めに登校してきた玲史は、また変わりなく……いや、少しご機嫌か。
「明日も会いたいところだけど、まだダメだよね?」
廊下側前列の俺の席。騒がしくなりつつある教室の中で、玲史が聞いた。
「何がだ?」
わざとでなく、聞き返すと。
「セックス。正式決定まで待つ気、変わらない?」
チラと周りを見る。誰も聞いてないが、この話題はしづらい。
昨日キスした記憶が色濃く残る俺の脳裏に、清々しい朝に似合わない画が浮かんじまいそうで。
「ああ……それで、つき合って……それからだ」
「うー残念。足りなかったみたい」
何がだ?
今度は瞳で問うと。
「キス。気に入ったら、僕に欲情して早く抱かれたいって思うようになるかなぁって」
口を開くも、言葉を飲み込んだ。
キスは足りた。十分だ。
欲情もした。
自分からセックスしたいって気になったのは初めてだしな。
玲史に、抱かれたいと思った……思う。
でも。早く、じゃなくていい。少なくとも明日とかはない。
学祭ギリギリまで見極めたい。
この気持ちが……恋か欲望か、を。
「遅くても学祭には、つき合ってるだろ。待つのは嫌か?」
キスについては触れずに尋ねる俺を、笑いを含んだ瞳で見つめる玲史。
「嫌じゃないよ。でも、僕の欲望は溜まってくからね?」
「……ほかの男とは、やらないのか?」
「どうしようかな。紫道 が嫉妬してくれるなら、やる気出るけど。しないっぽいし」
「まだ、する立場じゃないだろ」
つき合ってからなら、嫉妬は……するのか俺?
今はしない。出来ない。実体がないしな。
「お前の好きにしろ」
合わせた視線の先で一瞬、玲史の瞳が遠くなった。
「そのセリフ、今度はベッドの上で言ってね」
「……俺はそんな度胸ないぞ」
サド相手に、リスクが大きいだろ。
「ふふ……言わせてみせるから」
玲史の笑みにゾクッとなったところで。
「おはよー、仲いいね」
声の主は新庄だ。
「おはよう」
「おはよ」
「なんかあったの? 雰囲気、甘いんだけど?」
首を傾げた新庄が、俺たちを交互に見やる。
「わかる? もうすぐつき合うんだ。いいでしょ」
玲史に隠す気はないらしい。
「ね?」
「う……ん、まぁ、そうなるな」
同意を求められ、否定は出来ない。
隠したいわけじゃないが……こういうのは照れる。経験値が低過ぎるせいか。
「え、ホントにいいの? 何されるかわかってる?」
そう聞く新庄の表情を見る限り。からかってるんじゃなく、素で心配してるようだ。
玲史の性癖を知ってるんだろう。
「一応は……」
照れでも恥ずかしいんでもなく、顔が熱くなる。
今、何されるか思い描くな!
昨日の熱を、思い出すな……!
「僕たちの恋によけいなこと言わないで。聡 は? 凱 は諦めたの?」
「んー軽くフラレた。暫くは男とやらないで女の子にする、僕に手出すと恨むヤツ多そうだから特に……って」
フラレたっていうわりにはやや満足そうに、玲史に答える新庄。
「ふうん。ファンが多いと大変だね」
「サービスとかしてないし。ちゃんと恋人がほしいし」
「もう岸岡でいいじゃん。遊び人とビッチ、濃いセックスになりそう。どっちが上手いかなぁ」
「やめて、玲史。ビッチじゃないって言ったでしょ。僕は恋がしたいんだってば……ときめくやつ!」
「羨ましい?」
「川北がタチなら。チャラくなくて一途そうだもん」
その後の玲史と新庄の会話が、頭を素通りしていく。
恋って言ったか? 僕たちの恋……!?
玲史はそう思ってるのか。
恋がしたい新庄に、羨ましいって聞くくらい?
そんな感じ、しないんだが……俺が鈍いのか。
一途に見えるってのも変だろ。
誰か一筋に想い焦がれたことなんてないぞ。
ときめくって……どんなんだ?
「紫道? 何ぼうっとして。眠いの?」
玲史がクスクスと笑う。新庄はいなくなってた。
「いや……」
「明日は我慢して会わないでおくね。それとも、キスして……一緒に抜き合いっこでもする?」
朝の教室で。
下半身に伝わりそうになる妄想を必死でストップさせる。
「いや」
一刹那、気持ちが揺れたのは否めないが。
「やめておく」
そのほうがいいだろ。
「そ。じゃあ、今週末はゆっくり休んでおいてね」
「ああ……」
「恋人になったら、週末はゆっくり出来なくなるから 。来週中につき合い始める可能性あるでしょ」
機嫌のいいままの玲史の笑顔に笑みを返す。
恋人……恋……か。
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