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034 学園内では盛りません:S

 週末は武術部でトレーニング三昧だった。  土曜の午後は岸岡に頼まれて、腹筋メインにマシンで筋トレにつき合い。日曜は和希と、のんびりエアロバイクで有酸素運動をメインにした。  土日の2日間、玲史とポツポツメッセージのやり取りもした。  特に必要な連絡や内容じゃない、他愛のない言葉の応酬。こういうのが……恋愛でつき合うって感覚なんだろうか。まだプレの段階だが……妙な気分だ。  何してるか聞かれ、部活で運動してるというと。玲史からは『マジメに勉強中』って返ってきた。  マジなのかそうでないのか。性嗜好はアレだが、成績は優秀だ。  そして、ふと気づいた。  普段、休日をどう過ごしてるのか。何も知らない学園以外の玲史を、知りたい……そう思ってる。  ちょっとは気持ち、進んだのか。  知りたいってのは、もっと深く関わりたいってこと……だよな。  月曜日。  平和に午前の授業が終わり、昼休み。俺と玲史は急いで昼飯を食べた。  今日から4日間。風紀委員立候補認定者は、風紀の仕事をする。  12人それぞれがシフトを割り当てられ、3年の現委員とともに学園内の見回りをして……その仕事ぶりをチェックされる。  俺は今日の昼休みと水曜の放課後。  玲史は、今日の昼休みと火曜の放課後だ。 「うちの敷地内に、チェックポイントは19箇所あるんだけどさー」  体育館に向かって並んで歩きながら、風紀副委員長の坂口が説明する。 「毎回そんなに見回ってられないじゃん? だから、昼は3箇所だけ。昼休みの後半20分、シフトは2人で外と中に分かれてね」 「順番に、ですか? 今日6、7、8なら、明日は9、10、11を回るみたいに」  もらった見回りチェックリストの用紙に目をやりつつ尋ねた。  リストにはナンバーの振られたチェック箇所がズラッと書かれてる。  そのほかに、見回りのチェック録のファイルを坂口が持ってる。日付とナンバーで表になってて印をつける仕様みたいだ。 「ううん。完全ランダム。その日その人が適当に選んだ3箇所」 「え……適当にだと、偏りませんか?」 「そうね。でも、パターン決まってると裏かくヤツら出てくるだろ」 「あ……なるほど」 「けっこうバラけるもんよ。一応前日までのチェック録あるから、最近見回ってないとこわかるし。逆に要チェック場所もわかる……ほら」  坂口が広げたファイルを見る。  確かに。つけられたレ点はランダムに散っていて、さらに○で囲まれたレ点の多い箇所も明らかだ。 「この○がついてるのは、何か問題のあった場所ですよね」 「そう。だいたい9割5分がイチャつきカップル。残りがレイプとレイプ未遂と純粋な暴力ってとこ」  エロ……そんなに多いのか。  いや。毎日○印がついてるわけじゃない。見回りしてない場所でしてるのもあるだろうが……。 「何で学校で盛るのかねー? 学校終わるの待てないのか、見られたいのか……川北はどっち?」  は……? 「どっちでもない……です。俺は学園内で盛ったことはない、ですし……つき合ってるヤツもいません」  寮の敷地内でキスはしたが、一度だけだ。  ここに来てから誰ともつき合ってはいない……まだ。 「未来の話。玲史くんとつき合うんだよな?」 「は!? 何で、それを……坂口さんが……」  いきなりで、うろたえる俺に。 「玲史くんが、面接でさ。風紀になったら、狙ってる男がつき合うのオッケーしてくれるって言ってて。部屋出たあと、1年の翔太くんが……あの人か、意外だって呟いてた」  笑みを浮かべて坂口が話す。 「その前に。お前と玲史くんを|佑《たすく》が事前に推してた。2人セットで。報告がてら聞いてみたら、案外お似合いでしょ……って。嬉しそうに」 「そう……ですか」  ごまかす必要はないが、居心地がよくない。 「けど、そうなっても……学園内では盛りません」  これだけは主張しておかねば。  風紀委員になる者として。  常識ある者として。 「人目につかないとこで、キスだけでやめられる自制心があって。勃起しても出さないで鎮める自信があれば、ちょっとくらいはいいと思うよ……個人的にはね」  坂口がいたずらっ子の表情で俺を見つめる。 「万が一、学園内で盛ってるお前ら見つけたら。見逃すのはキスまでな。1分過ぎたら止める。玲史くんにも言っといて」 「は……い」  あくまで坂口個人の考えだとしても。キス1分まではオーケーって、玲史には言わないほうがいい気が……。 「あ。見られたほうが興奮するからって、わざと続けるなよ」 「……俺は! そういうことを人前でするつもりないので、大丈夫です」  かろうじてキッパリ口調で言い。前を向いた坂口に気づかれないよう、深い息を吐いた。  外回りになる体育館では。お決まりの体育倉庫じゃなく、2階にある音響照明制御室ってブース周りを点検した。  そして、次に第二校舎端の裏手。天文部前の廊下の非常口から外に出ると、校舎内のどこからも見えない死角になるスペースがある。  ラストに、校庭横の部室棟。数少ない運動部は学生にあるまじき行為が見つかれば即廃部のため、各々の部がしっかり管理してるようで。部室で飲酒喫煙暴力をする生徒はいないはず、とのこと。  当然、不純同性交遊もだ。  とはいえ、軽く様子を窺いながら先へ行く。見回るのは、使われてない端の2つの部室。鍵はかかってるがどうにかして入り込むヤツもいるらしく、ここをチェック。 「今日は収穫なくてつまんないなー。せっかくの実践チャンスを」  坂口には悪いが、何もなくてホッとした。  他人のエロシーン……邪魔するのは気が引ける。もちろん、見つかるとこでするなって話だが。 「ないほうが平和でいいです」 「ま、コレはカタチだけの最終審査モドキだから。12人、みんな必要。何かエグい場面見て、今さらやめるって言い出すヤツがいないといいけどねー」  坂口が俺の胸を指でつっつく。 「お前も。気が変わって玲史くんとのおつき合いごとやめるってのは、なしだぜ」 「……わかりました」  予鈴の鳴る1分前。風紀の見回りを終えた。

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