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085 おかしいだろ!:S
木谷からのメッセージを見て、確かに思った。
助けになるなら、なりたい。
玲史が木谷のヘルプに応えたいってのも、理解できる。
だから。
都合がよければ会って話したいってのに、オーケーし。水分補給し。シャワーを浴び。玲史が手早く用意した、分厚いハムを挟んだバケットサンドを食べ。昨夜の余韻が残る玲史の部屋を後にして、学園のある駅前に出向き。
木谷の話を聞いた。
それによると。
昨日、津田とキスした。
襲わなかったし、襲われなかった。
セックスに関しては、少し考えさせてほしいと言われた……けど。
今日、木谷の家に津田が泊まりにくる。
セックスしにくる。
木谷を、抱きにくる……らしい。
そして、あのメッセージ。
『ケツにちんぽ挿れるコツ、教えてください!』
玲史へのヘルプ。
コツというか、やり方を教えてほしい……が、正しいようだ。
中学の頃から片思いしてるにもかかわらず、木谷は男同士のセックスに疎かった。ゲイビを見たことはなく、情報源はマンガだけ。リアルな部分がわからない。
津田とうまくいったそのあとまでは、しっかり考えてなかったらしく。
「昨夜、自分でやろうとしたんだけど……出来なくて。指が入らない。ちんぽなんか無理でしょ!? みんな、どうやって広げてんですか!?」
まだ日が暮れてない駅前広場のベンチ。幸い、話の内容まで聞こえる範囲に人はいないが……音量を気にしない声で訴える木谷に。
「ちょっとずつ解せば入るの。ローション使った?」
答える玲史は楽しそうで。
「使ったけど、穴閉じてるから垂れるだけだし。力で指ぶっ刺そうとしたら、痛いし」
「アナルの襞に指で塗って、押せば開くの。絶対広がるに決まってるじゃん。出すとこなんだから」
「俺のは、外からは開かない穴っぽい」
「開くってば」
「……コツを教えてほしいです。とにかく、本番であいつのちんぽが入るように」
「指が入らなきゃ、その先ないでしょ」
同意を得るように俺を見る玲史に、僅かに首を振り……目で伝える。
俺は傍観者に徹する。
話を振るのはカンベンしてくれ。
俺にアドバイスなんてもんは出来ないからな。
経験値が低いんだからな。
エロトークは苦手だからな。
聞いてるだけで、恥ずかしいんだからな!
了解してくれたのか。微笑んで、木谷へと視線を戻す玲史。
「指より太いちんぽ、挿れたい?」
「そりゃ、挿れたいですよ。あいつがその気になってるなら、やりたい」
「だよね」
2人の会話が再開。
「風紀の面接の時、高畑さんに言われるまで……あいつとセックスするとか、考えてなかったけど。考えたら、ヤバい。妄想しまくり」
「それ、抱かれるほう?」
「両方した。どっちもヤバい」
「きみを抱きたいって、津田くんが言ったの?」
「あーそれ。あいつに『俺を抱きたいのか?』って聞かれて。お前とやれるならどっちでもいいって言ったら、考えさせてくれ……って」
「で、考えた結果?」
「『挿れられるのは怖いから、俺が挿れる』っていうから。じゃあ、そうしようってことで」
「きみは怖くないの?」
「ないです。和橙 が相手なら」
「津田くん、和橙っていうんだっけ。」
「はい。それより、教えてください! 解し方! あいつ、習い事行ってて……7時に来るから、それまでに!」
今は5時前だが、7時……から、やるのか。元気だな。
「川北さん」
木谷が俺に顔を向ける。
「デート中に、本当すみません。時間取らせちゃって……」
「かまわない。オーケーしたのはこっちだ」
2人の会話に積極的に加わりはしないが、恐縮されることもない。
ほかに予定もなかったし。
玲史が乗り気だったし。
まだ、あまり助けになってないが……。
「問題ないよ。教えるって言ったの、僕だし。でも……」
玲史も頷き、続ける。
「挿れる以前に、解せないって言われちゃうと……」
「高畑さん。川北さん」
木谷が、真剣な顔で。
「実演、してください! お願いします!」
とんでもないことを頼んでくる。
「俺んち、近くなんで。うちで、お二人にやって見せてくれれば……」
ノーだ!!!
頭と心で叫んだ拒否を口に出す前に。
「見せるのはいいけど、解したら挿れたくなっちゃうからなぁ」
玲史が勝手なことをほざく。
「挿れたら、きみの家で何時間かやることになるけど。いいの?」
「玲史! ダメだ!」
断固拒否せねば!
「いいわけねぇだろ……」
「別にいいですよ。俺たち、ほかの部屋でやります。うち、今夜誰もいないんで。あ! そしたら、セックスもレクチャーしてもらえたり」
その返答に。
「木谷」
落ち着くために、深呼吸して。
「そっちじゃねぇ。見せていいっつーのがダメだ。見せてくれ、なんて……何考えてんだ」
ハッキリ、ノーだ。
「……すみません」
しゅんとする木谷。
「翔太は必死なんでしょ。ずっと好きだった和橙くんと初セックス。説明聞いてわかんなくても見ればわかるってこと、いっぱいあるじゃん」
かばう玲史の笑顔に、溜息をついた。
エロ方面での常識みたいなもん、コイツにはないんだった。木谷にはあると信じたいが……。
「ですよね! 俺、どうしても成功させたくて」
「じゃあさ、僕が解してあげよっか? きみの」
「玲史、そりゃ……」
マジで何言い出すん……。
「え! いいんですか? ぜひ!」
マジで……。
おかしいだろ! 木谷も!
「紫道 ? どうしたの?」
ノーって、言うべきか。言っていいのか。
「きみが見せるんじゃないから、いいでしょ? アナル拡張教えるだけだよ。翔太の見るのもダメ?」
「い……や……」
「あ。寮って門限ある? 僕は翔太の家行くけど、先に帰る?」
続く玲史の問い、イエスかノーとかじゃなく……違うだろ。
わからねぇ……何がよくて何がダメなのか……。
「川北さんも来てください」
俺を見つめる木谷の瞳は切実で。
「もちろん、高畑さんを信じてます。俺のことも信じていいです。けど、2人きりだと心苦しいっていうか……川北さんにも、和橙にも」
ああ……もう。
「わかった」
よくはないが、ひとりで降りれないだろコレは。
行くしかない……よな。
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