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096 ひとつあると楽しめるよ:R

「高畑さん。コレ、何に使うんですか?」  翔太の手には見本品のエネマグラ。前立腺開発の基本アイテムだ。 「自分で中いじるアナニー用だけど、オモチャで攻めるならコレが一番かな」 「へー……」  アダショの男向けオナニー系グッズコーナーの一角にズラッと並ぶエネマグラを、翔太がもの珍しそうに眺めてる。  好きな男のために風紀委員に立候補したくせに、その男とのセックスを具体的に妄想したことはなかったらしく。男同士のエロに関して、最近までほとんど無知だった翔太だけど。昨日、無事に処女喪失して。アナルでの快感に目覚め。好奇心も旺盛のよう。  相手の和橙(かずと)も、初セックスを終えてエロに貪欲になったようで。卑猥なアイテム群に臆することなく、ひとりで店内を散策中。 「けっこうな種類あるけど、変な形……このくるっとしたの何?」 「ツルは持つとこ。引っ張ったり、位置を微調整するのにね」 「あ、キュウリとかのツル? 茎の先っぽのくるくるしたやつ」 「そう。ツルがないタイプもあるよ。あるとズボンはけないから、切っちゃう人もいるし」  僕に向ける翔太の眉間に、微かな皺が寄る。 「コレ挿れて服着る時ってあるんですか? 俺はアナニーって経験ないけど、アナルでオナる時って下は脱いでるんじゃ……?」 「普通はね。でも、ほら……ナカにエネマとかバイブ挿れて外出て、人前でイクのが性癖の人もいるじゃん。露出癖の一種かな」 「……マジか」 「あとはプレイ。ナカにオモチャ挿れてるの、人に気づかれないようにガマンさせて。ガマン出来ずにイッちゃって恥ずかしがるとこ見て楽しむの」 「え……誰、が?」 「僕とか。今度、紫道(しのみち)にやりたい……」  嫌がるだろうけど。  でも。  外はともかく、エネマ攻めはやらなきゃね。SMとしてはソフトだし。マジ、とろとろになるし。 「高畑さんって、ちょっと……サドですよね?」  翔太の問いに。 「うん。いじめて泣かせてイキ狂わせるのが快感だから」  ニッコリして答える。 「でも、ただ痛がるとか苦しむとかは楽しくない。サイコ系じゃないよ。攻めるのは快楽に溺れさせるため」 「……俺、まだ……普通のセックスで十分。コレも……」  手にしたエネマをじっと見つめる翔太。 「まだいいや。普通にオナるのが物足りなくなってからで」 「和橙くんがオモチャ使いたいって言ったら? ここでいろいろ実物見たら、妄想膨らんでるんじゃない?」 「それは……モノによります。ムチとかロウソクとか、絶対嫌だし。変な衣装とかも着たくないし。あと……」  真剣に考えてるんだろうけど、オモチャの方向性が何か……微笑ましい感じ。 「バイブなんて必要ないでしょ? 自分のでやればいいのに、いつ何のために使うんですか? 萎えた時の代わり? 一緒に休憩でよくないですか?」  夜には早い時刻だから、店内に客は少なくて。陽気なBGMがかかってるのもあり。周りを気にせず喋れるのはラッキーとばかりに、翔太が聞いてくる。 「僕がバイブ使うのは、相手を休ませないでイキっぱにする時とか。焦らして、ちんぽほしがらせる時とか」  バイブで攻めると、そのあとでペニス挿れた時の反応がいいのもあるし。自分の射精コントロールしなくていい分、じっくり攻められるし。 「抱くほうはイクのに限度あるじゃん? 3回も出したら、勃ち悪くなるし。腰振るのも疲れてくるし」  紫道とノーリミットみたいにやれたのは、例外。 「バイブは基本的にちんぽの代わりだから、必要ないなら使わなくていいよ」 「はい……ていうか。俺のほうも、3回はキツいですよ」  笑みを浮かべてから、翔太が真顔になる。 「もしかして……抱かれる側は無制限にイケるってマジ? 男は物理的に無理でしょ?」 「出すのは無理かもだけど、ドライで……射精しないでイクなら無制限かな。体力が続けば」 「え……出さないでイケるってのもマジ? それ、イクっていわないんじゃ……?」  素でわからないっぽい翔太は、ほんとに初心なんだ。ネットに山ほどあるエロ情報は、フェイクや大げさなのも多いから……実践して実感して知るしかないか。 「『ドライオーガズム』で調べてみて。そのうち、きみも出来るようになるから。あ、ソレ」  翔太がツルを指にかけてブラブラさせてるエネマを顎で指す。 「奥には届かないけど、前立腺攻めてドライイキするのに最適なの。ひとつあると楽しめるよ」 「……バイブより?」 「うん。挿れて放置されると余裕で狂っちゃえるくらい」 「短いし、バイブみたいに動かないのに?」 「電動のもあるけど、エネマは勝手に動いてイイトコ刺激してくれるから」 「は!? 動くのコレ!?」  まじまじとエネマを見つめる翔太の後ろに。 「どうした? 大声出して」  和橙が登場。 「コレ、勝手に動くって……知ってたか?」 「あ……うん。ネットで見た……」 「すっげイイってよ。試そっか? お前、やり方もわかんだろ?」 「だいたいは……」  翔太が目の前にかざすエネマから僕へと視線を移した和橙は、困ったような嬉しそうな顔してる。  オモチャに乗り気なネコは、開発しがいあって楽しいもんね。 「まだ慣れてないのに中、コレ……平気ですか?」  やる気満々の和橙に頷いた。 「大丈夫。そっちのより細いし短いし」  和橙が持つ小型の買い物カゴに入ってるのは、ミディアムサイズのバイブだ。 「これは、その……一応、ひとつあると便利だと思って……」 「何……あ! 何で? お前ので十分だろ!? しかも黒? なんかゴツいし。イボイボしてるし。俺ら超初心者なのに……」 「だから、一応だって」  呆れたふうな翔太が、エネマを揺らして息を吐く。 「ったく。予備だぞ予備。まずはこの白くてソフトなのからな」 「……わかった」  期待が顔に出てる和橙。  知ってるんだよね、きっと。見た目と違って、エネマのほうがある意味凶暴だってこと。  アナニーなら自分で引き抜けるけど、2人で……タチが攻めで使うなら、自分で抜かせてもらえない。特に、挿れっぱ放置プレイで使うのに最適なオモチャだってこと。  やっぱりこの2人お似合い。いいカップル。いいコンビ。  ほかのことには抜け目なく頭の回転も早そうなのに、エロには無頓着そうで素直な翔太と。研究熱心でねちっこいセックスしそうな和橙。  2人とも僕と紫道にエロい場面見られるの抵抗なかったから、そのうち……。  お互いを観察して煽りながらの同部屋プレイに誘ってみよう。 「あと、おすすめのモノってありますか?」 「んーコックリングとローター……って。リング、持ってるじゃん」  和橙に聞かれて答えつつ、手元のカゴの中をよく見ると。しっかり、コックリングがあった。サイズ違いの3つセット。シリコン製。 「はい。必要だと思って」  よく勉強してきたらしい。 「何ですかコレ?」  カゴを覗き込んだ翔太が僕を見る。 「きみを気持ちよくするためのモノ。詳しくは和橙くんに聞くといいよ。あとでね……やりたくなっちゃうから」  顔を見合わせる2人に微笑んで。 「じゃあ、仲良くエネマ選んでて」  ほかのコーナーへと向かった。  SM系グッズが並ぶコーナーには、数人の客がいる。性癖じゃなくても、プレイとしてSMを楽しむ人は少なくはない模様。  道具使ってただただ痛めつける趣味はないから、ケインや針ものは要らない。肉体の苦痛が快感に直通してるマゾにはいいんだろうけど、紫道は違うし。そういう人は普通の性的刺激より痛みを求めるから、僕とは合わないし。  ほしいのは、尿道プラグ。  挿れるのは痛いけど、快感に繋がる痛みだし。射精管理にも使えるし。尿道の奥、ペニス側から前立腺を棒でつつかれて擦られるる気持ちよさは…なる人はクセになる。  紫道はどうかなぁ。使うの、オッケーしたよね。気に入るかな?  シリコンのほうが無難だけど、視覚効果的には金属製のほうが……。  視線を感じて、振り向いた。  斜め後ろにいる男と目が合って、逸らすのを待つも……逸らさない。見てる。じーっと。  あ、こっち来る。 「えーと……あんた、清崇(きよたか)とつき合ってたヤツだよな?」  サラサラ赤毛の見知らぬ男が言った。

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