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098 誰のため?:R
「誰かにつけられたりしなかった?」
ドアの開く音に顔を上げて、尋ねると。
「大丈夫。俺はそんな大物じゃねぇよ」
笑いながら、清崇 が狭いカラオケルームのベンチシートに腰を下ろす。L字型ベンチの、僕が座ってないほうの一辺だ。
「僕と会ってるとこ、見られたらマズいんじゃないの?」
「……まぁ、な」
『人目に触れない場所で話したいことがある』
『出来れば今日すぐにでも』
『こっちの駅はNG』
『現地集合』
『ホテル以外で』
清崇からのメッセで、僕が提案したのがここ。学園の駅前に3軒あるカラオケのひとつ。
「これ、俺の?」
テーブルに置かれたアイスコーヒーに、清崇が手を伸ばす。
「あっま! ガムシロ何個入ってんだよ」
「2つ。ミルクも2つ。僕のも」
「いつもコーヒーはブラックだったろ」
喉が渇いてたのか。それでも、半分以上一気に飲み干す清崇に微笑んだ。
「今日は身体じゃなく頭使うからね」
「あー糖分補給ってか」
「そ。じゃあ、先に結論ていうか……僕との密会がマズい理由と、マズいのに密会する理由。経緯とか考察とか希望とかの前に話して」
着地点がわかってるほうが、話が見やすい。
「そりゃ、お互い恋人がいんだからよ。ほかの男と秘密に会うのはマズいだろ。しかも、元セフレだぜ?」
茶化す清崇に。
「僕とやりたいなら、いつものホテルにしたでしょ。ていうか、それなら来ないし。やるなら、紫道 がいいし」
取り合わず。
「秘密にしなくても、僕はかまわないけど。幸汰 くんと紫道呼ぼっか?」
続けると。
「よかった」
清崇がホッとしたように息を吐いた。
「お前が彼氏のこと、ちゃんと好きで」
「え?」
「いー男だったもんな。やるならあいつがいーんだろ? してんじゃん、恋愛」
レン、アイ……じゃないつもり、だけど。
もし……コレが、そうだったら……って。
そんなの、今は問題じゃない。話が逸れる。
「かもね。紫道は好き。トクベツだし。セックスもイイし。つき合ってるし」
「なら、話は早い」
僕の言葉に、満足げに頷く清崇。
「今からお前に話す内容、幸汰には絶対知られたくねぇんだ。お前が何か知ってっかもって思わせるのもナシ」
だから、密会か。
「面倒なことが起きそうでよ。最悪のシナリオ回避のために、お前と決めときたいことがある」
「……何を決めるの?」
「まずは前提。俺とお前は元セフレ。1ヶ月くらい前が最後で、今はお互いフリー。恋人はいない。好きなヤツもいない」
無言で目を合わせたまま、数秒経過。
清崇は冗談言ってない。M気アリの快楽好きだけど、バカじゃない。
心当たりがあるんだろうと思ってたけど。もう、確定でヤバめな事案っぽい。
「誰のため?」
質問タイム突入。
「幸汰とお前の男、紫道」
「僕もターゲットなの?」
ターゲットが清崇だから、恋人だと思われてる僕が危ないんじゃなく?
「俺とお前。ほかにつき合ってる男がいりゃ、そいつらも 。理不尽だけど、原因は俺」
「あり得る危険は?」
「……ボコられる。輪姦される」
清崇が簡潔に答える。
「そん時は、俺らだけで十分だろ」
「ふうん……」
なるほどね。
清崇は幸汰を守りたい。で、僕も……自分と同じように、紫道を守りたいはずって思ってる。
だから、今はフリー。
僕とは、ホテル行くような関係ってバレてるから。無関係は装えない。
でも。
ターゲットの清崇を苦しめる目的で僕も標的になってるなら。
過去のセフレより、今の恋人のほうが効果的じゃん? 僕より幸汰をどうにかされるほうが、清崇のダメージは大きいもん。
ソレをしない理由は、幸汰の存在を知らないから……だとすれば。
清崇の恋人の幸汰の情報と引き換えに、元セフレの僕は標的から外れる。
ココのとこ、清崇が見落としてるはずはない。
だから。幸汰の存在がバレても、僕はセーフにならないはず。僕自身がターゲットっていうのは本当……その理由に全然心当たりはないけど。
「僕とつき合ってることにして、わざと人目につこうとは考えなかったの? そのほうが幸汰くんを守るのに都合よかったでしょ」
「は……考えたに決まってんだろ。俺にとって大事なのは幸汰だけだ。お前とは身体だけ。ある程度の情はあっても、守る義理はねぇし……」
清崇が唇の端を上げる。
「つって、ソレやったら……お前が幸汰をやる。俺への仕返しで。だろ?」
「そうだね」
僕の口元もほころぶ。
「きみが賢くて安心した」
「お前のこと、よく知ってんのはセックスのテクくらいだけどよ。半年もやってりゃ、わかることもあんだろ。お互い」
「信用出来る感じ?」
「おう。だから、俺のことも信じろ。ウソは吐かねぇ。手札も隠さねぇ」
清崇が僕を見つめる。
「幸汰の代わりにお前を犠牲にするわけじゃねぇんだ。どうやっても、お前はターゲットから外れねぇ。だから……幸汰は売らないでくれ」
「売らないよ。2人で済むのに3人に増やす必要ない、でしょ?」
嘘のない瞳を見つめ返した。
「腹いせに幸汰くんを巻き込むほど、クズじゃないつもり」
「……サンキュー」
あ。いい笑顔。
紫道には及ばないけど、この男も見た目に反してかわいい。だから、長くセフレ関係が続いたのかも。
「じゃ、何がどうして誰に狙われてるのか。それ聞いて、対策を練ろっか」
ターゲットにされてるからって、おとなしくどうこうされる気はない。
清崇と僕。プラス、幸汰と紫道がやられるのが最悪のシナリオなら。4人より2人のほうがマシ。ボコられるだけのほうがマシ。被害ナシが一番。
謂れのない罪の代償を払うのは、見合う対価がないと無理。そんなの、なさそうだし。
「俺ら狙ってんの、お前とやるようになって……会うのやめたヤツのダチでさ。お前のせいで俺と切れたって、完全逆恨みだぜ。恨むなら俺だけでいいのにな」
アイスコーヒーを一口飲んで、清崇が話し始めた。
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