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100 それでもだ:S

 寝つけねぇ……。  スマホをオンにして確認する。  時刻は22時11分。  電話の着信はナシ。メッセージもナシ。通知音が鳴ってないんだから、なくて当然なのに……溜息が漏れちまう。  玲史からの連絡を待ってるせいだ。  風紀の見回りのあと。玲史に電話して、八代の件を伝えた。  玲史に沢渡(さわたり)の中学の先輩との関わりがないなら。あるのは、一緒に画像に映ってた清崇(きよたか)から繋がる線。間に、ほかの誰かがいると思えるが……全く見当がつかない。  清崇に聞いてみると言った玲史に、何かわかったら連絡してくれと頼んだ。  さらに。  どんなことでも話してくれ、嫌な予感がするんだ……って。  らしくないだろ俺。  しかも。  どうしても気になるなら、こっちから聞けばいいってのに。電話でも。メッセージでも。  何もないのがわかりゃ、安心して眠れるはずだってのに。  電話出来ねぇ。  メッセージも送れねぇ。  連絡が来ないのは、何もないからだ。  そう思っても……気にかかってしかたねぇ。  嫌な予感が消えないのは、俺の第六感が仕事してるせいか? 俺の弱さか?  弱くなった。どこか見えないとこが、弱くなった。  何かに怯えてる。  心配で。不安で。失くすのが怖い。俺のモノって気はしてないが、玲史を……失くしたくない。  失くしたくないモノがあるってのは、こんなに怖いもんなのか。  この恐怖も不安も、玲史を好きにならなけりゃ感じなかった。  あいつとつき合って、楽しいのも嬉しいのも増えた。知らなかった感情も知った。  ずっと空っぽだったところが、満たされてる。  寝返りを打って、常夜灯を見つめる。  玲史、今どこにいる……?  誰かをこんなに気にかけた経験がなくて。気になるってだけで連絡していいもんなのか、わからない。  いや。  いいはずだろう。つき合ってるんだからな。  なのに、遠慮しちまうのは……自信がないせいだ。玲史に恋愛として好かれてるっつーか、思われてるっつーか。  同じ気持ちがあるのかないのか。  わからねぇ。  だから、臆しちまう……って。  マジらしくねぇ! このツラに似合わねぇだろ! クソッ!  自分がおかしいってのは、昼から自覚してる。  だから、早いとこ寝ちまおうとしてるが……眠れねぇ。  玲史を失くしたくない。  玲史に嫌われたくない。  玲史が、好きだ。  変わらない変える気もない気持ちは……抱えとくしかねぇ、か……。  もう一度寝返りを打ってスマホを手に取った瞬間、通知音が鳴った。 『寝てたらごめん』 『清崇と話したよ』 『大したことじゃなかったから安心して』 『詳しくは明日ね』  玲史からのメッセージに、ホッとして息をついた。 『わかった』 『おやすみ』  とりあえず返信し、メッセージを読み返す。  今日いきなり何か危ない目に合うかもとは思っちゃいないが、無事でよかった。  木谷たちと買い物に行ったあと、清崇と会ってたのか? 元セフレと……って、疑うわけじゃない。  大したことじゃないのか。  安心しろっつーなら努力はするが、まだ心配だ。  明日……か。  明日、顔見て聞くまで……。  会って、話聞くまで……。  寝よう。  そうすりゃ、明日だ。  深く息を吸って吐いて、目を閉じた。  玲史のメッセージに返信したあと、すぐに眠りに落ち。アラームと同時に起きて朝飯を食って。普段より少し早く登校したが、いつもは俺より先に来てる玲史の姿はなく。 「おはよー。寝過ごしちゃった」  玲史が教室に現れたのは、始業時間ギリギリだった。 「おはよう……大丈夫か?」  思わず尋ねたことに他意はない。  顔に痣が出来てるとか。顔色が悪いとか。調子悪そうだとか。玲史に変わったところはなく。 「うん。元気だよ。ケンカも浮気もしてないし」  普通だ……と思う。 「なら、よかった」 「……ねぇ、学校終わったらきみの部屋行っていい?」 「今日、か……!?」 「昨日の話。昼休みは僕が見回り当番だから、時間ないじゃん?」  あ……そういう……。  別のことが頭を過った自分が、ちょっと……ダメだ。朝っぱらから。 「そうだな。話……」 「紫道(しのみち)」  見透かした瞳で俺を見上げ、玲史が笑む。 「期待したなら、応えてあげる」 「な……っ」 「あとでね」  何言ってんだ!……って返す前に。担任の小泉が教室に入ってきて、玲史が自分の席へと戻っていった。  本気なのか。  からかってるのか。  余裕のある玲史に、エロ方面に余裕のない俺。  いつも通り……だよな。 「本当に……いいんですか?」 「ああ」  西住に聞かれて頷いた。 「嘘つかせて悪いが、そうしてくれ」  飯食ったあとの昼休み。  風紀の見回りに行ってる玲史とは別行動で、一緒にいるのは西住と沢渡。場所は1年の教室が並ぶ廊下の端。ここに見回りは来ない。  昨日、西住たちと別れてから考えた。  玲史を探ってるらしい八代に、名前は教えた。連絡先はまだ教えないでほしいと、沢渡に頼んだ。  そして、どうするか。  俺に出来ることは何か。  玲史に何かあったら、助けて守る。  そのために、最優先すべきは……『何が起きてるのか』を知ることだ。確実に。  玲史が俺に話さなくても。  俺に嘘をついても。  俺に隠して動いても……ってより。隠して動けないように、だ。  玲史の連絡先として、俺の連絡先を八代に教える。  考えついたのは、コレしかない。  恋人って関係にあっても。玲史に内緒でこんなこと、よくないのはわかってる。  俺のエゴで。  俺のためだ。 「沢渡。頼む」  昨夜、夕飯の前。今日の昼に話したいと沢渡に連絡を取り、了解は得ていた。  当然のように西住もいて。俺の話に言葉を返してるのは、今のところ西住だけ。 「おい。何でずっとダンマリ? 向こうにバレなきゃ、お前的には問題ないだろ?」  西住に腕を揺すられ、難しい問題を解いてるみたいな表情で視線を落としてた沢渡が俺を見る。   「八代先輩が言った内容、高畑さんにそのまま伝えますか?」 「伝える」 「変えずに?」 「ああ」 「必ず?」 「ああ。俺は、ただ知りたいだけだ」 「……高畑さんが、川北さんに知られたくないことだったら?」 「それでもだ。玲史に何かあったら、守りたい」  沢渡の瞳が揺れる。 「頼む」 「……わかりました」  言って、沢渡が目を逸らした。  その様子に違和感があった……が。 「ちゃんとやれよ。じゃなきゃ、別れるからな」  西住の言葉に安心する。  大丈夫だ。  これで蚊帳の中にいられる。  玲史は怒るだろうか。  勝手な真似をして、と。  部外者が首突っ込むな、と。  信用してないのか……と。  いや。  もう、決めたんだ。  俺は俺に出来ることをする。  後悔しねぇように、だ。

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