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167 愛してる:S and R
Side S
「愛情表現」
重ねてた唇を離し、玲史が言う。
「僕にも出来た」
かわいいことを。
「エロくなかったでしょ?」
笑んだ瞳で。
「ああ……」
確かに。
エロくない、触れるだけのキス。快感目的じゃない、軽いキス……だってのに。
欲情しちまう!
今日はやらない。エロはナシ。そう玲史に了承させたのは、求められたら拒めないからで。拒めないのは、俺自身が玲史を求めてるからで。求めるのは、好きだからで。
だから。
だからこそ。
今日は、エロナシで。なくても、俺は玲史を好きだ。それを証明するっつったくせに。
身体が熱い。
半勃ちだ。
こんなんなっちまってるのは、ここに来る前からほしくなってたせいか。俺の性欲が旺盛過ぎるのか。
それもあるが……。
玲史を好き過ぎるんだ。
欲情するのは想定内。
大丈夫だ……。
「寝る前にシャワー、一緒にする?」
尋ねる玲史に、他意があるようには見えない。欲情してる瞳じゃない。
「いや……先に浴びてくれ」
「オッケー」
笑顔を残し洗面所へと向かう玲史の後ろ姿に、音を立てないように溜息を吐いた。
バスルームでひとり、ぬるめの湯を浴びながら反省する。
玲史に母親との話を聞いて。よかったな、としか言えなかった。
幼い頃に自分のもとを去った母親と会って話し、負の感情と折り合いをつけるのは容易じゃなかっただろう。俺が康志 を完全な過去にするよりもよっぽど。
彼女に愛されてると信じられた玲史に。会ってよかった、ありがとうまたねと言えた玲史に。
気のきいたことも言えず。
抱きしめてやりたいのを堪えるのがやっとで。
よくやったなと褒めるとか。お前は愛される存在だとか。少なくとも、俺も愛してる……くらい、言えただろ。
なのに。
キスされて欲情して……今、抜いて。抜いたのに、熱も欲も収まらない。
しかも、だ。
万が一に備えて、ナカも洗ってるとか……やらないっつったのは後悔してない。玲史に求めてるのは快楽じゃない、のに……貪欲な身体を呪うぞ、クソッ。
冷水を頭からかぶり、バスルームから出た。
「早かったね」
リビングに戻ると、立ち上がった玲史に。
「スッキリした?」
聞かれ。
「ああ……まぁ、な」
不自然に曖昧に返事になった。
我慢出来なくて抜いてきたのなんぞ、玲史にはお見通しな気がするからだ。
「まだ11時前だけどさ」
近くに来て俺を見上げる玲史。
「疲れてるし、きみと一緒ならいい夢見れそうだし。もう寝ようよ」
無邪気な瞳は清く尊い。
「ああ、寝よう」
ニッコリ微笑む玲史と、寝室に移動した。
「何もしないできみとベッドにいるの、変な感じ」
「そうだな」
パンツにTシャツ姿で布団にくるまり、横になって向き合った状態での玲史のコメントに同意。
「物足りないか?」
聞いたのは、エロを期待してじゃなく。
俺の価値はエロなんじゃと疑ったわけでもなく。
純粋に気になった。
玲史はマジで平気なのか?
やりたく、ならないのか。
やりたいのを堪えてるのか。
俺たちの間にはいつもエロがあって。エロナシなのは初めてで。ソレがなくても一緒にいるだけで十分なのは、愛があるからで……。
「足りてるよ」
薄闇の中、玲史の目が光って見える。
「今日はトクベツだもん」
「そうだな」
同意する。
母親と和解した日だ。俺の想像以上の充足感や達成感があっただろう。心を動かすイベントの余韻で玲史が満たされてるのは、俺も嬉しい。
「今日はちゃんと母親と話せて……」
「何言ってるの? 紬 さんのことのわけないじゃん」
えらかったな。頑張ったな。そう続けようとして、遮られ。
「きみだよ。紬さんに会えたのも話せたのも、きみがいたから」
見つめられ。
「きみのおかげで愛なんてモノ、信じられたし。紬さんと会ってる時も、きみがいたから無敵だったし」
「玲史……」
「愛してるよ、紫道 。だから、足りてるの」
突然の。唐突の。思いもかけない告白に。
脳内スパークで、全身が眩む。
「アイノチカラなの。紫道も、でしょ?」
ああ、そうだ。
ソレ以外にねぇ!
「あいし、てる……」
辛うじて飛ばずに残った意志と愛のチカラで。見えない愛を伝えるために、玲史を胸に抱きしめた。
「うん。シアワセ」
顎の下で、くぐもった玲史の声。
「俺もだ」
同意しかねぇ。
今まで生きてきて一番。
この先ほかの瞬間がトップになるとしても、玲史ナシではあり得ねぇ。
甘ったるい幸福の瞬間は長く続き、玲史の寝息が聞こえてきた。
身体は欲で熱を持ったままだが、ソレ以上に心が欲情してる。
そして、その欲は満たされ続けてる。
いい夢が見れそう、だ……な……。
Side R
アラームの音で目覚めたのは、いつもの時間。いつもと違うのは、昨日に続き今朝も紫道がいて。一緒に朝食。別々にシャワー。昨日と違うのは、昨夜はセックスしてないこと。
エロナシでも。思ってたより、ストレスないし。気分も下がらないし。やれないなら一緒にいる意味ないとかカケラも思わなかったし。
紫道がいるだけでイイ。心が満足。ココロが気持ちイイ。
ほんと、実感した。
愛されてるし、愛してる。
なんか、永遠に知り得なそうな秘密を知った感じ。ないと思ってたモノがあったの。自分の中に。
ソレがわかって。
身体だけじゃなく心の快楽もある。
ソレもわかって。
自分の価値も恋人の価値もセックスじゃない。セックスだけじゃない。
ソレもわかった。
昨日は禁欲。
ソレはいい。
でも……もう昨日じゃない。
「ストップ」
制服を着ようとする紫道を止めて。
「ベッド行こう?」
誘う。
「は……? な、に……」
固まった紫道の手からシャツを奪い、ソファに放る。
「抱きたいの」
要望を伝え。
「きみは?」
紫道の意見を聞く。
嫌ならしない。無理強いはしない……けど。
紫道もやりたがってる。抱かれたいと思ってる。昨夜、バスルームで抜いたはず。ずっと、ほしがってる……けど。
禁欲は僕のため。だから、紫道からは言い出さない。だから、僕が言う。
「今日は、エロアリがいいなぁ」
紫道が答える前に。
イエスと言いやすくする。
「好きな相手とセックスするの、愛し合うっていうじゃん?」
「玲史……お前には、かなわねぇ」
紫道が、僕の手を取る。
「抱いてくれ」
「うん。愛し合おう」
クサいセリフを口にして。手をつないで寝室へと急いだ。
「愛ってのは、今も……マボロシ、か?」
ベッドの上。
エロいキスをして。
深いキスをして。
紫道のアナルを解して。
また、舌を絡めて。
離した唇の間で、紫道が尋ねた。
「え……」
どうして今、気になるのと思いつつ。
「あるのはわかったけど、消えるかもしれないモノでしょ?」
自分はコレが初の恋愛だけど。見て聞いた感じ、多くの人の恋愛は一生に一度じゃないっぽいし。確かにあっても消えて、また出来て……だから。
知らずに思ってたように、思い込みとか想像の幻じゃないとしても。掴んで放さなきゃ失くならないモノとは違う……幻っぽいモノ、なんじゃない?
「消えねぇ、ぞ。コレは……消えねぇ」
「そうだね」
何故か僕も、消える気がしない。
「消えないマボロシ、かも……」
「ああ、そうだ……うッ! く……ッ!」
紫道のアナルにぺニスを押し込んで、一気に奥へ。
「ッあ、れい……じッッ!」
「んっ、あ……ッ」
バカみたいに気持ちイイ。
熱い肉に埋めてくこの感覚。初めてじゃないのに。数えきれないほど味わってきたのに。
身体の欲望をジワジワと満たすのにプラスして、心の欲望も満たしてく……二乗した快楽に堕ちてくみたいな……今日のこの感覚は未知の快感。
ヤバ。
ちょっとヨユウないかも。すっごくほしい。
悪いけど、最初から飛ばさせて。
「ひッああ……そ、こッあッ! いッ……うあッッッ……!」
紫道もヨユウがないらしく、早くも腹に精液を撒き散らす。
イッたばかりのナカを掻き回し、止めずに腰を振る。
「はッ……くッあ……ッッう……ッ!」
「紫道……一緒に、堕ちよ……ッ」
潤んだ瞳で僕を見つめ。両脚を僕の背中に回してアナルを押しつけ、さらに奥へと誘う紫道。
奥へ。深みへ。快楽へ。
一緒に、堕ちてく。
「あ、あッ……れ、いッ……ッ! あいッし……て、る……ッあ……ッッッ!」
「んッ……愛してるよ」
アイは消えないマボロシ。
消えない幻なら、堕ちるのもいい。
好きな男と一緒に、ね。
完
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