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第1話(1-1)
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飲み会のあと、酔い潰れた翔をタクシーに乗せると当たり前のように運転手へ「ホテルで。そーいう感じの。」と流暢な日本語で行き先を告げた珊瑚。
自分より7~8cm背の高い、筋肉質の男性(しかも酔っぱらってほぼ寝ている)を運ぶのは至難の技だったが、カメラや機材を担ぐ珊瑚もある程度力はあるので、引き摺りながらなんとか部屋へたどり着いた。
「あー、重…っ!!」
翔をベッドに投げると冷蔵庫からビールを取り出してタブを開ける珊瑚。
「日本のビールもなかなかだよなー。」
ポケットで震えるモバイルを取り出し、先月別れたスペイン男からの通話に出た。
珊瑚の捲し立てるような外国語(スペイン語)で目覚めた翔は、自身が置かれている…ゲイの珊瑚とラブホにいるという状況を見て驚くが、特に服も乱れていないことを確認するととりあえずホッとする。
「もうかけてくんな!泥棒野郎っ!!」
そう日本語で叫ぶと翔が座るベッドの横へスマホを投げる珊瑚。
「あ、起きた?吐くならあっち…」
珊瑚がトイレのある方向を指差すが、翔の顔色は良さそうだ。
「へーき…。あの、電話…!」
「あー、一応元カレ?
なんか会社の金盗んで捕まってさー…。
まだやり直したいとか寝言ほざくからキレてた。」
「…スゲーね(苦笑)
じゃあ、今はフリーなのー?」
「まぁね。
何? …ヤる?別にいいよー?」
軽口でそう誘う珊瑚に驚きながら苦笑する翔…
「俺、女の子専門なんだけど…!」
「ノンケなの…?! マジで?
凪といいあんたといい…バイだと思ったのに…!」
最近見る目が鈍ってるな…と呟く珊瑚。
再びスマホが震えて苛立ちながら通話を押す珊瑚…
「だからもうかけるなってー!」
「…珊瑚兄?」
「…アビー…?
ごめん、何でもない。
…どーした?」
「あの、サチの薬が届かなくて…!」
「またかよ…っ!
ストックは?」
「あと2日分…。ばあちゃんは先週からずっと明日には届くって言うだけだし、クロイの店にも来たらすぐにって言ってあるけど…!
じいちゃん腰痛めてるし…どうしよう…」
日本語で話している辺り、祖父母には内緒で連絡してきていることが伺える。
「分かった…。
アビー…悪いけど、明日学校休んで病院まで取りに行ける?」
「うん。行くよ。」
「駅までクロイに送らせるから…電車自分で調べられる?…金は?」
「えっと…」
「待って、今入金する。」
スマホを操作し、珊瑚はネットバンクを通じて送金したようだ。
「…いつものとこに入れたから、通帳とカード持って銀行寄ってから病院で頼むね。先生にはあとで連絡しとく。」
「ありがとう。
珊瑚兄…ごめんね、お金…!
あの…やっぱり俺も働くよ。」
「気にしなくていいから。
お前は頭いいんだから大学に行きな。
明日も間に合いそうなら学校行けよ?」
「分かった。」
「頼むね。
サチは?」
「みんないるよ。呼んでくる!」
隠れて電話していたらしいアビーは下の兄弟たちを呼びに行った。
しばらくすると賑やかな外国語が聞こえて、小さな子供たちの笑い声とバタバタとした足音も聞こえた。
珊瑚もさっきまでとは違い、にこやかに子供たちの相手をして本当に"いいお兄ちゃん"といった感じだ。
側でその様子をずっと眺めていた翔は、珊瑚の二面性に驚き、戸惑い、固まっていた。
通話を終えた珊瑚は1つ大きなため息をついた。
「はぁー…。
あれ? まだいたの? 帰ったと思ったのに…。」
「…今の誰?」
「…ドイツにいる家族だけど…?
あ! ヤバい、長電話しすぎた。
もうバッテリーがない…。
ねぇ、スマホのバッテリーってコンビニとかで買えるの?」
「iPhoneでしょ? 俺持ってるよ。」
「ちょっと、急ぎで電話したいから借りていい?…時間ある?」
「いいよー。」
そう言って充電器を珊瑚へ貸して、彼の電話が終わるのを待った。
多分だが、病院へ電話しているようだ。
「ありがと。助かった…。」
素直にお礼を言って充電器を返し、ベッドに転がる珊瑚。額に右手を置いて目を瞑り休んでいるようだ。
「帰らないの?」
目を閉じたまま翔に確認する珊瑚。
「…そっちは?」
「あー…、多分あいつらラブラブタイムだと思うからこのまま泊まる。」
居候先の弟カップルに気を遣っているらしい。
「そっか…。えー…なんかさ、」
「何?」
「意外…ってか、家族と話してる方が素なんだよねー?なんか…興味湧いちゃって…!
ちょっと話、聞いてもいい?」
珊瑚は一呼吸置くと取り繕うのを止めて、穏やかに話し始めた。誰かに家族の話をするなんていつぶりだろう…。
「別に面白い話じゃないよ?
うち、弟たちが5人いるんだけど、みんな養子で。
さっきのアビーって俺と紅葉のすぐ下のやつは頭いいから日本語も教えた…。紅葉なんてアホだから学年追い付かれそうになってさ(笑)
一番下のサチって女の子は4歳。
隣町に学校サボって遊びに行って…
教会の裏に産まれてすぐに捨てられてたのを俺が拾った。」
「はっ?!」
「心臓に穴があいてて…多分それで親が捨てたんだと思う。」
「ひどいね…。
あ、それで人物の写真は撮らないの…?」
「まぁ…、そんな感じかなー。
サチっておれが名前つけたの。
日本語で幸せって意味でしょ?」
可愛いんだよ、と家族写真を見せる珊瑚。
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