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お仕事をします!・2

「はい、いらっしゃいませ」 「お客さんですかっ? い、いらっしゃいませ、です!」  初めての来客に緊張しているのか、ヘルムートの頬は真っ赤になっている。当然だが接客は流石に任せられない。 「イチゴのノーマルショートと、チョコレートタルトと、紅茶シフォンを二つ……」 「シフォンが二つ、……ですね」  品の良いマダムという雰囲気の女性が、頬に手をあてながらウィンドウのケーキを眺めている。  するとそこへひょこっとヘルムートが顔を出し、止める間もなくマダムに言った。 「お姉さん、イチゴの丸いの、すごく美味しかったです! 丸いの、おれのオススメです!」 「こ、こら。ヘルムート!」 「あら、お姉さんだなんてありがとう。でも親戚の子供達へのお土産だから、もう買う物は決まってるのよ。ごめんなさいね」 「そ、そうですか……残念」 「次に来た時は、ぜひ買わせて頂くわ」 「約束です! ……おれ、衛さんに予約入りました、伝えてきます!」 「うおいっ! それはいいから!」  慌ててヘルムートの腕を掴んでとどまらせ、俺はせっせと注文通りのケーキを箱に詰めていった。  ――客がいる時は口にチャックさせねえと。 「ありがとうございました!」 「あ、ありがとうございましたっ!」  マダムを見送った後で、ヘルムートに向き直る。 「あのな、店にはマニュアルってモンがあるんだ。客から訊かれない限り、自分のお勧めを言う必要はない」 「で、でもお姉さん、次来たら買うって……」 「気を遣わせただけだ。今のはたまたま良い人だったからそう言ってくれたけど、中には気を悪くする人もいるんだぞ。イチゴが嫌いな人だっている。お前だって買う気のない物をぐいぐい勧められたら困るだろ」 「あ、う……。ごめんなさい……」  しゅんとなったヘルムートに溜息をついてから、俺は「いいよもう」と手を洗いに行った。 「良かれと思ってやったんだろ、次から気を付けてくれればいい。……感覚を掴むまでは、俺の接客のしかたを見ていてくれ」 「わ、分かりました」  何しろ短期間でここまで日本語を覚えるほどの知能があるのだ、ケーキ屋の接客なんて一日かからず覚えられるんじゃないだろうか。 「ノーマルショート、チョコレートタルト、紅茶のシフォン……」  現にヘルムートは先ほど受けた注文内容を口の中で繰り返し、ケーキの名前と見た目を一致させようと脳内で勉強している。 「ふふ。おれも全部欲しいです……お腹空きました……」  と思ったら、全然違ったらしい。

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