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初めてのデートです・3
取り敢えず燃えるゴミの袋を掴んで外へ出ると、同じアパートの住人である202号室の相中 さんがいた。丁度同じタイミングでゴミ出しに行く所だったらしく、両手に大きなゴミ袋を持っている。ヒーローキャラの描かれたTシャツは汗でじっとり濡れていた。
「おはよう、佐島くん」
「どうもです相中さん。暑いっすねぇ」
身長は俺と同じくらいなのに、猫背なせいでずっと小さく見える。仕事も在宅で行なっているそうで、腕や首は真っ白な相中さんだ。黒縁メガネの奥にある目は死んだ魚のようになっているし、この時期は相当動きにくいだろうなと思う。
「そういえば昨日、102号室に内見に来てる人がいましたよ。佐島くん、何か聞いてます?」
唐突に訊かれ、俺は首を横に振った。
「ウチの隣に? いえ全然、何も知りませんけど……ずっと空いてましたからね。どんな人だったんですか?」
「……僕とはあんまり合いそうにない人だったよ」
ということは今風のリア充か、コワモテの不良系か。
「もしその人が入居するなら、僕の部屋の真下ってことになるんですよね。これからは足音も気を遣うことになりそうで嫌だなぁ……」
「大丈夫ですよ。何か因縁つけられそうになったら俺が止めに入りますから。……部屋にいればの話ですけど」
「た、頼むよ佐島くん! 本当に本当にお願いだよ!」
ゴミ袋を持ったまま、相中さんが俺の方へググッと顔を近付けてくる。
「わ、分かりましたから……」
と、そのタイミングでヘルムートが玄関から飛び出してきた。
「千代晴! 着替えました、どうですかっ?」
「……何だそりゃ、タンクトップのサイズがデカ過ぎ。前屈みになったらおっぱい見えるぞ」
「でも千代晴、おれのおっぱい好きです。昨日だってずっと――」
「ばっ……、っざけたこと言ってんじゃねえぞ、アホ!」
相中さんは俺とヘルムートを見て、目を真ん丸にさせている。
「佐島くん、いつの間にこんな可愛い子と同棲を……」
「へ?」
「おれ、可愛いですか? へへ、ちょっと嬉しいです……」
「……世の中、不公平だ」
しょんぼりと肩を落とした相中さんが、ゴミ袋を引きずりながらアパートの敷地を出て行った。
「……今のひと、誰ですか? 千代晴のお友達……?」
ヘルムートが俺の腕を掴み、相中さんが去って行った方へ不安げな視線を向ける。
「上の階に住んでる人だ。相中瑠偉 って人」
「るい。るいるい……。悪いひとじゃないです、おれのこと可愛いって言ってくれました」
「そうだな。ちょっと変わってるけど、悪い人じゃねえ」
「傷付けたの、おれですか……?」
「………」
その表情があまりにも不安げだったため、俺は「バーカ」とヘルムートの頭をぽんぽん叩いてやった。
「相中さんはいつもあんな感じなんだよ。要らん心配してねえで、お前ももっとマシな服に着替えてこい」
「……ん! 分かりました!」
そうして無難なTシャツに着替えたヘルムートが、得意げな顔で再び出てきた。下は俺のカーゴパンツだが、丈が余り過ぎて普通のパンツのようになっている。まあ、Tシャツワンピースになるよりはマシだ。
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