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初めてのデートです・5
結局ウサギのTシャツを含め、充分に洗濯が間に合う枚数の服を購入して俺達は店を出た。
次は下着。これは三枚千円のボクサーブリーフを二セット買って、靴も、あのぺらぺらなビーサンだけではあんまりだということで、しっかりしたデザインのサンダルを買ってやった。
「身に着けるものはこのくらいだな。ヘル、そろそろ飯でも、……ん?」
「千代晴、たくさん服ありがとうございます! おれ、一生大事に着ます!」
嬉しそうに店の紙袋を抱きしめるヘルムートの向こう側に「ある物」を発見し、俺は悪戯心からヘルムートの目を見て言った。
「……なあ、ここで待ってろよ。じっとしてられるか?」
「千代晴、どこに行きますか?」
「すぐ戻る。いいか、俺以外の誰に何を言われても、絶対について行くな。ここで立って待ってるんだ」
「分かりました、千代晴のことここで待ってます」
力強く頷いたヘルムートの頭を撫で、念のために質問する。
「誰かがお菓子あげるよって言ってきたら?」
「千代晴じゃない人にはついて行きません!」
「よし!」
俺は小走りで駆けて行き、先ほど発見した店頭の「ある物」を手にレジへ急いだ。
「3800円でございます」
「げっ、そんなにすんのか。……まあいいや、包まなくて良いのでタグだけ切って下さい」
片手でソレを抱え、再び小走りでヘルムートの元へ戻る。ぽつんと寂しそうに立っているヘルムートの後ろ姿を見てほくそ笑み、驚かせようとして肩を叩きながら声をかけた。
「お兄さん、美味しいケーキ奢ってあげるよ」
「いりません! 千代晴じゃない人とは喋りません!」
「おお」
こちらを振り返りもせず意外にもしっかりと拒否してきたヘルムートに感心し、今度は彼の正面に回って笑ってやった。
「あ、……千代晴! お帰りなさい!」
「ちゃんと待ってたな。――ほれ、プレゼント。支給品じゃねえぞ」
「わっ……」
ヘルムートの胸に、今しがた買ってきたソレを押し付ける。
俺が買ってきたモノ。それは両手で抱えるに充分な大きさの、クラゲのぬいぐるみだ。
「お前が元々はクラゲだって聞いて、それが目に入った時にピンと来たからよ。服もいいけど、こういう物の方がプレゼントっぽいだろ」
「………」
「えっ」
ぎょっとしたのは、放心状態のヘルムートの瞳から大粒の涙が零れたからだ。
「ちょ、おい、……何で泣くんだよ、お前……おいっ」
おろおろしてしまう俺の前で、ヘルムートが大きく横に首を振る。
「おれのこと、変だって思ってませんか……。……おれが赤ちゃんの時クラゲだったの、イヤじゃありませんか」
「別に嫌じゃねえよ。まあ驚きはしたが、宇宙人だから、ってので全部納得しちまうくらいには俺もお前に慣れてきたし」
大きなぬいぐるみを抱きしめて、ヘルムートが長い睫毛を静かに伏せる。
「元がクラゲちゃんでも、今のお前はその姿で生きてるんだろ。それで充分じゃん」
「千代晴……ありがとう」
「………」
静かに感謝されると妙に照れるが、涙に塗れたヘルムートの目は綺麗だった。……クラゲを放そうとしないので、買った荷物は全部俺が持つことになったが。
「それじゃ、飯でも食うか。歩き回って疲れただろ」
「めし。飯食べます!」
「食後にケーキも食っていいぞ」
「ありがたきしあわせ~……」
何だそりゃ。
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