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初めてのデートです・6

 ビルの屋上にレストランがあるというので行ってみたら、そこはちょっとしたカーニバル風の広場になっていた。ポップコーンやチュロスの売り場があり、この暑い中子供達に風船を配っているピエロがいて、特設ステージではデビュー前といった感じの知らないアイドルが歌って踊っている。  確か午後五時からはビアガーデンになると書いてあったっけ。どうせなら夕方来れば良かった。 「わあ!」  ともあれ広がっているのはヘルムートの好きそうな風景だ。甘い匂いに釣られて勝手にチュロスの方へ駈け出そうとした彼の腕を掴み、「まずは飯!」と強引にレストランへ入ろうとした――その時。 「千代晴、千代晴。見て下さい」 「どうした?」  ヘルムートが指した方向には、二人の女の子をナンパしている三人組の男がいた。 「いいじゃん、行こうよ。コイツの車デカいし快適だよ」 「何もしないって。こんな真っ昼間から」 「い、いえ大丈夫です……」 「二人ともマジで可愛いしさ。じゃあ今度合コンしよ。連絡先だけ教えてよ」 「困りますそんな、急に……」 「え? 俺達が困らせてんの? 困るってどういうこと? 迷惑? 話してるだけなのに?」 「そういう意味じゃ……」 「じゃあいいよね。番号ちょうだい、今かけて俺達の番号もそっちに送るから。嘘の番号だったり着拒したら怖いよ、俺達」  ……タチの悪そうな連中だ。わざと強く出られないおとなしそうな子を狙ってるということか。 「……千代晴。お姉さん達、困ってます」 「みたいだな」  周りには小さい子供が走っていて、ベビーカーを押す大人や、赤ん坊を抱いている母親もいる。三人程度なら俺が出て行って拳で黙らせても良いが、それだと周りに迷惑がかかってしまいそうだ。  ――気が進まないけど、仕方ねえ。 「千代晴……」 「いいかヘルムート、黙ってろよ。口にチャックだ」 「むっ」  俺はヘルムートと共に彼らの元へと近付いて行き、女の子と目が合ったタイミングで片手をあげた。 「遅れて悪いな、待っただろ」 「あ、……」  すぐに理解してくれた女の子達が俺の背後に隠れ、祈るように両手を合わせて震えている。 「何だてめぇら、この女のツレか? いきなり出てきてふざけてんじゃねえぞ」 「待ち合わせしてたんすよ。そっちこそ俺の女に手出さないでくれます?」 「あぁ?」  大学生くらいだろうか。チャラついている癖に相当イカレた目付きだが、あいにくガンの付け合いで俺は負けたことがない。 「ぶっ飛ばすぞ、てめえ!」  そして始めにデカい声を出せば怯むと思っている奴らに限って大したことはない。怒鳴り声で威嚇するのは自分を大きくみせたいからだ。  俺は細めた目で真っ直ぐに男を見据えながら、低い声で囁いた。 「暑いし、お互い面倒くせえことするのは止めとこうぜ。女が欲しいならもっと手軽にナンパできる所があるだろ、横着しねえでそっち行けや」 「うるせえぞ、てめ――」 「やんのか、コラ」 「っ……!」  男の顔がカッと赤くなった。一瞬の怒りに勢いを乗せ、男の拳が俺の顔面めがけて飛んでくる。  ――一発くらいなら殴られても良いか。 「ちょ、ちょっと待ってください!」 「あっ?」  突然俺の前に飛び込んできたヘルムートが、男に向かって両手を広げる。 「千代晴なぐったら、おれが許しません!」 「うるせえぇっ、死ね、ガキ!」 「ヘルムート!」  あまりにも予想外な出来事に、一瞬反応が遅れてしまった。  男の拳が振り下ろされる。しっかりと正面を見据えたヘルムートの顔に、勢いをつけた硬い拳が――

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