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初めてのデートです・7

「そいつに触んじゃねえぞコラァッ!」  叫びながらヘルムートの肩を押しのけようとした俺の右手が、見えない何かの力によって弾かれた。 「っ……?」  まるで静電気に触れた時のような、じんわりとした痺れが右手に残っている。 「う、く……てめぇ……」  見れば男の拳もヘルムートの顔面すれすれで停止していた。ただしそれは静電気のような見えない何かに遮られたのではなく、物理的にヘルムートが男の拳を直前で止めたためだった。 「ヘル、……お前……」  男の顔を見据えたまま、勢いよく振り下ろされた男の拳を片手であっさりと止めたヘルムート。体格差も腕力差も明らかにヘルムートの方が下なのに、何てことないように男の岩のような拳を左手のひらで包み込んでいる。 「何やってんだお前、そんなガキ相手に手抜いてんなよ!」 「く、……うるせぇっ……!」  男の仲間達が囃し立てるが、拳を押さえられている男の額には脂汗すら浮かんでいる。  尋常でない力で男の拳を掴んだまま、ヘルムートが背後の女の子に「これ持ってて下さい」とクラゲのぬいぐるみを渡した。  そうして男に向き直ったヘルムートが、その目を真っ直ぐに見てニコリと笑う。 「は、離せこのガキ……!」 「女の人に酷いこと言わないって約束しますか」 「何言ってんだてめぇ、離せっつってんだろうが! 言うこと聞かねえとてめぇ――うっ?」  うっ。  思わず俺も、男と同じ声を心の中で発してしまった。 「ど、どこ触ってんだガキが……突っ込まれてえのか?」 「千代晴の以外はいらないです」 「ああぁあぁっ――!」  一瞬、俺の目が変になったのかと思ったが……違う。  確かに今目の前で、男の股間を掴んだヘルムートの右手に青い火花が散っている。 「うぎゃああぁ……!」 「何だどうしたっ? 大丈夫かお前!」 「放せっ、……てめぇ、放してくださいッ!」 「放します」  ぱっとそこから手を離したのと同時に、ヘルムートの手から火花が消えた。 「………」  しんと静まり返った屋上広場。女の子達も男の仲間達も、そして周囲の人達も……俺も。  その場にいた全員、あんぐりと口を開けてヘルムートを見ていた。 「け、警備員さん、あの人達です! あの男達が、女性を脅していて――!」  誰かが呼んだ警備員がこちらに走ってくるのが見える。俺は慌ててヘルムートの腕を掴み、その場から逃げ出した。 「お兄さん、これ!」  ぬいぐるみを任せられていた女の子が、ヘルムートに向かってクラゲを投げる。 「わ、ありがとう!」 「こちらこそありがとうございました!」 「茶髪のお兄さんも、ありがとうございましたっ!」  二人に向かってブンブンと手を振るヘルムート。彼女達の背後では、例の男達がおとなしく警備員に取り押さえられていた。 「な、何だったんださっきの? お前、スタンガンか何か隠し持ってたのか?」  エレベーターに乗り込みダッシュで駅ビルを出た俺は、膝に両手をあててゼーハーいいながらヘルムートに質問した。 「ううん、違います。おれ電気使うの得意です。さっきの人懲らしめるために電気流しましたが、そんなたくさんは使ってなかったです……あの人、大袈裟です」 「や、男なら誰でもアレはビビるだろ……」  思い返しただけでゾッとする。股間に電流なんて……俺は死んでも経験したくない。 「千代晴、怖かったですか?」 「え?」 「女の人いじめるの、おれ許せませんでした。それに千代晴が怒ってるの、すごく伝わってきて、……だから……ごめんなさい」  ぬいぐるみを抱いて頭を下げるヘルムート。 「………」  ――俺が怒ったのは、あいつがお前に触ったからだ。  それを言えず、俺はしゅんとなったヘルムートの肩を軽く叩いた。 「確かにコッチまで股間が痺れそうになったけど、結果的にあの子達を助けたんだ、お前が俺に謝ることねえだろ」 「でも、口にチャックする約束破ってしまいました」 「……ぶっ」  思わず噴き出し、つい大声で笑ってしまう。笑いながらヘルムートの背中をばしばしと叩くと、ヘルムートも少し恥ずかしそうに俺を見てはにかんだ。 「よし、飯行こうぜ!」 「行きます!」  痺れさせるのはクラゲだからか? 電気ウナギじゃなくていいのか?  考えても仕方のない疑問を浮かべつつ、俺はそっとヘルムートの手を取った。 「触っても大丈夫です。悪い人達にしかチカラ使いません」 「そ、そうか」  まだまだ頭上には太陽が照っている。  今年は本当に、色んな意味で暑い夏になりそうだ。

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