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静かな青の世界へと・2

「えーと、便利屋やってた時の稼ぎを円に換えて、今の地球での仕事の給料も合わせれば……うん、赤ちゃん産まれても地球でのIDくらいは用意できると思うんだよね。教育のために日本国籍が必要ならそれも取得しないとだし」 「金でどうにかなる問題なのか?」 「地球のお偉いさん達の中にも異星人はいるから。ボクお金はそんな必要ないってタイプだし、ヘルちゃんと千代晴ちんに遣ってあげるよ」  一体どれほどの大金がその通帳に記されているのか知らないが、お偉方を動かすほどの金額が入った預金通帳をポケットに入れているとは、ナハト――何て奴だ。 「て、ていうかお前からそんな大金受け取れる訳ねえだろ。俺だってもし『その時』がきたら、男として自分の力で……」  あぁ〜ん馬鹿、としなを作りながらナハトが俺の額を人差し指でツンと押した。 「五千万とか、一億とかの話じゃないよ。異星人が地球人に溶け込んで一生生活するってのは……そうだね、だいたい一人当たり百億は必要なんじゃないかな。まずIDだけでその半分は持ってかれるし」 「ひ、ひゃくおく……!」 「それもこれも、地球のお偉いさん達がボク達異星人の存在をトップシークレットにしてるからだね。ボクの故郷なんて色んな星の子達がご近所感覚で星々の間を行き来してるよ」  そういう話を聞いていると、地球はだいぶ遅れているんだなと実感する。国によっての貧富の差や同族同士での差別や戦争なんて、きっとヘルムートやナハトからしてみれば謎でしかないだろう。  黙り込んだ俺を見て、ナハトがにんまりと笑う。 「さてとさてと、ボクは仕事があるから出掛けるよん。千代晴ちん、今日は休みなんでしょ? 早いとこヘルちゃんを不安から解放してあげなよ」 「……不安?」  思わず呟くと、ナハトが素肌の上にパーカを羽織いながらヘルムートの声真似をした。 「千代晴、おれのこと嫌いだから抱いてくれないのかもしれません……。自分の都合ばかり優先して、赤ちゃん欲しいおれの気持ち、考えてくれてません……」 「………」 「なんてね。でも悠長に考えてる暇がないってことだけは事実だからさぁ。子供作る気ないんだったら、冷たい態度で部屋から追い出した方がまだヘルちゃんの為になるよ。期待させるだけさせといて『やっぱ無理です』なんて……ボクだったら相手のことぶっ殺しちゃうかも」  俺はベッドの上にあぐらをかき、「確かに」と心の中で呟いた。  後先のことを考えなければ保留にするのは簡単だし、それと同じくらいヘルムートを抱くのも簡単だ。ヘルムートにとって一番良くない結果というのは、俺が先延ばしにしたせいで人生一度の繁殖期を逃し、子供が産めなくなること。  王子だから子孫を残さねばという理由じゃない。ヘルムートは自分の子供を欲しがっているのだ。  今もソファの上で寝転がり、俺が買ってやったクラゲのぬいぐるみを抱いているヘルムート。その無防備な寝顔は俺を信頼しきっている証拠だ。 「取り敢えず子供のことは抜きにしても、少しでもその気があるなら『好き』って言ってあげてもいいんじゃない? その上で、千代晴ちんのマグナムで一発ハメればいいんだぽ」 「ばっ、馬鹿なこと言ってんじゃねえ、マジで下品な奴だな!」 「にゃはは。それじゃボク仕事行くね。今日帰って来るか分かんないし、番号置いとくから何かあったら連絡してよ」 「お前、地球で何の仕事してるんだ」  ふふん、とナハトがあぐらをかいた俺の股間を指で押す。 「あ?」 「ココとお尻使うお仕事。今日は大事なお客様が、ボクの大好きなブランドのスーツ買ってくれるって言うからさぁ。めんどいけど行かなきゃ」 「ホストか」 「ホストっていうよりは超高級コールボーイってとこかな? これでもボク、リッチなおじ様&お兄様に大人気なのよ。SもMもできるし、お客様の前ではサービス満点ヨイコちゃんだから」  両手の人差し指を頬にあてて笑うナハトに溜息をついて、俺はベッドから床に降りた。宇宙人のホスト、ましてやこんなデンジャラスボーイが大人気だなんて……地球の男達はどうしちまったんだ。

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