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ビフォア・バースデイ・3

「ヘルちゃん、留守番するって言うから部屋に残してったんだけど……」 「いねえぞ、誰も。そういう動揺サプライズは要らねえから」 「ほ、本当だよ。ヘルちゃん少し具合悪そうで、お腹に気を遣ってたから……温かい飲み物も買って来たんだ」 「………」  もう一度部屋に戻り、今度は寝室のドアを開ける。  明かりの点いていない寝室のベッド──その上に、ヘルムートがいた。 「ヘ、ヘルムートッ!」  青ざめた顔に荒い呼吸。薄い胸板が激しく上下し、尋常でない汗もかいている。 「ヘルムート……! 大丈夫か。目を開けろ、おい!」  慌てて明かりを点けてヘルムートを抱き起すと、伏せられていた睫毛が微かに震えた。  薄っすらと開いた地球色の瞳が、苦しそうに俺を見つめる。 「……ち、よはる……」 「どうしたんだ、一体……。腹がおかしいのか? 寝ていた方がラクか?」 「千代晴ちん。……もしかしてヘルちゃん、タマゴが生まれるんじゃ……」 「えっ?」  ヘルムートは腹を押さえている。その手からは、別荘に行った夜に俺達を包んでいた優しい光が発せられていた。 「千代晴……明かり、消してください……」 「お、おう。分かった、すぐに消す」  リモコンで電気を消すと、暗闇の中でヘルムートの手と腹が発光しているのがよく見えた。まるで深海に光るクラゲのように、──命が、美しく輝いている。 「どうすればいい。ヘルムート、何か俺ができることはあるか」 「一緒にいて……千代晴、ここにいてください……」 「ああもちろんだ、俺はここにいるぞ。安心しろ」  ナハトが「うひゃあ!」とジャンプし、寝室から飛び出して行った。 「ボク、えっとえっと……タオルと水、持ってくるね!」  ヘルムートの手に自分の手を重ね、仄かに光る腹を優しく撫でる。 「大丈夫だ。無事に産まれてくる。……まぁ、こんなに早く産まれるなんて思ってもなかったから、少しビビッたけど……。ヘル、お前飯もたくさん食ってたし、よく寝て、よく笑ってたから……大丈夫。丈夫なタマゴが産まれるはずだ。楽しみだな?」 「……ほんの小さなタマゴなのに、産まれるの、こんなにお腹痛くなるなんて思ってなかったです……」 「痛いよな。でもそれこそがタマゴが滞りなく出てくるって証拠だ。ヘルムート、何も心配しなくていい。俺達は子供の父親になるんだ。家族になるんだよ」 「しあわせ……」

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