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手のひらの天使・6

 数日後。 「はろーっす! 千代晴ちん、ヘルちゃん! ボクがいなくて寂しかった~?」 「こ、こんにちは。ご無沙汰してます」 「あ、ナハトと瑠偉くん! お帰りなさい!」 「はい、お土産。こっちはヘルちゃん、こっちは千代晴ちんね。――いやあ、この時期の札幌って寒くて大丈夫かなって思ったけど、物凄く綺麗で最高だったよ~! 食べ物は美味しいし雪もいっぱい降ってたし!」  ヘルムートがナハトから受け取った紙袋を開けて歓声を上げた。中にはヘルムートの好きそうなお菓子で溢れている。ミルクキャンディが詰まった牛乳瓶、ホワイトチョコレートの缶、生キャラメルにビスケットなどなど。  俺の方には有名店の袋ラーメンが大量に入っていた。有難いが、……まあいい。ラーメンは大好きだ。 「ありがとう、ナハト! 大事に食べます!」 「瑠偉もありがとうな。ナハトの子守り、大変だったろ」 「いえ、僕も楽しかったですから。千代晴さん達はお変わりないですか? 何だかんだでしばらく会ってなかったから……」 「瑠偉くん、おれと千代晴の赤ちゃん見てください!」 「へ? あ、赤ちゃん……?」 「……ヘルちゃん。もしかして、孵ったの……?」  ナハトのデカい目が更に大きくなるのと、頬が真っ赤になって行くのと、殆ど同時だった。 「みっ、見せて! 見せて見せて! 会わして~!」  その場に浮かんだナハトが尻尾をふりふり、俺とヘルムートに飛び付いた。  その背後でぽかんとしている瑠偉だが、彼はもうナハトから「宇宙人カミングアウト」は受けている。初体験の時にナハトの尻尾に気付いた瑠偉が驚いて、全裸のままベッドから転げ落ちたそうだ。  慌てる瑠偉にナハトは強硬手段を取り、あれこれ質問攻めされる前に自慢のテクニックで瑠偉を骨抜きにした、とナハトは自慢げに語っていたが。瑠偉がすんなり受け入れてくれたのは、元々の素直な性格や柔軟な思考があったからだろう。 「見てください、ナハト!」  ヘルムートが金魚鉢を抱えて見せた。中では俺達の子供――「ブラウ」がぱしゃぱしゃと水遊びをしている。 「うっきゃあぁ、可愛い! クリオネちゃんなのっ?」 「はい! 名前はブラウといいます!」 「ぴったりな名前だね、可愛い! 男の子? 女の子?」 「えへへ、まだよく分かりません……」  名前は「青い」イメージが良いと言ったのは俺だ。海、水、星、光――色々と案を出したが、最終的にヘルムートがそのまま「青」と決めてくれた。 「ブラウ、この人がナハトと瑠偉くんです。お友達ですから、仲良くしてください!」 「くうぅ」  翼足をぱたぱたと振って、ブラウが金魚鉢から飛び出した。 「お、大きなクリオネが宙に浮いている……」  瑠偉の冷静な言葉につい噴き出してしまった。俺はもう慣れてしまったが、確かに地球の常識ではありえないことだ。 「よろしくねブラウ。ボク、ナハト! 男の子なら将来イケメンになるよ~」  ブラウはヘルムートと同じで甘いものが大好きだ。ケーキやビスケットなんかはバクバク食べるし、もちろんソーセージも細かくカットすれば食べる。ただ熱いもの(温かい物)は苦手らしく、昨日「温めるとさらに美味しい」という宣伝文句のクッキーを食べさせたら、それまでご機嫌だったブラウが金魚鉢の中に籠ってしまった。ヘルムートいわく、体温を下げるために水に浸かっているらしい。  ちなみに地球のクリオネと違って、食事の瞬間だけ悪魔になったり――はしない。 「何にせよ、無事に孵化して良かったね! 瑠偉くん、見てみて~! ブラウちゃん!」 「は、初めましてブラウ、さん……。相中瑠偉です」 「くう」 「この子、ヘルちゃんと千代晴ちんの子供だよ。産まれたての赤ちゃん」 「……へ?」  ……説明が大変そうだ。

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