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お見合いミッション発動 1
ウォイッス! 俺の名前は綾辻美佐緒(あやつじ みさお)。正真正銘、れっきとした男だ。そこんとこ、よーく頭に叩き込んでおいて欲しいんだが、俺に初めて会うヤツの十人中十人、全員が必ず口にする「えっ、女の子だと思った」というセリフ、そいつを聞かされ続けて十八年、さすがに反論する気力も尽きてきた。
そもそも俺は東京に本社を構える綾辻物産を経営する親父・孝雄(たかお)と、同じ敷地の離れに住む姑と一緒に自宅で茶道や華道に着付け、そして生田流箏曲といった、お稽古事と呼ばれるものを教える御袋・志乃(しの)の『三男』として生まれた『はず』だった。
それは大学進学を果たした四月、月も半ばを過ぎたある日のこと。兄二人を欠いた、家族三人だけでは広すぎるダイニングの朝食の席で、親父が突然「美佐緒、今度の日曜日に見合いの予定があるから、そのつもりでいなさい」と言い出しやがった。
「……い、今、何て言った?」
問い返す俺に、御袋が念を押した。
「だからお見合いよ、お見合い」
割烹旅館さながらの朝食、せっかくの御馳走を前に、苦虫を噛み潰したような顔をする親父とは対照的に、御袋は上機嫌で鼻歌を歌いながら、俺の好物であるシリアルがどっさり入った深皿と牛乳を目の前に置いた。
「見合いって、何で俺が? 大学に入ったばかりで結婚なんて考えられるわけねえし、それって学ニイの間違いだろ」
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