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御宅訪問 お邪魔しま~す 1
ここらは東京に近いわりには起伏のある丘陵地帯で、キャンパスがある場所もその一画だから、そこから下るとなると、車はまるで遊園地のジェットコースター状態。
大型のワンボックスカーとはいえ、箏のように長いものは真っ直ぐに入れると先が一番前まで届いてしまい、運転席と助手席の間に突き出た先端は固定してあっても、ジェットコースターの振動でガタガタと大きく揺れ、俺はそいつを抑えるのに必死で、話をするどころではなかった。
箏だけではなく、三味や尺八、その他の備品が入ったケースも後ろの座席で賑やかな音を立てている。人の気も知らずに、ハンドルを握りながら楽しそうに鼻歌を歌う聖爾、毎日のことで慣れたのか、楽器たちの大騒ぎも気にならなくなったのだろうが、ちょっとスピード出し過ぎじゃないのか?
運転免許は一応取ったけれど、普段車に乗る機会のない俺はどこをどう進んだのかわからず、道路がようやく平坦になってやれやれと安心したのも束の間、裏通りをひょいひょいと行くうちに、見覚えのある風景が目に飛び込んできた。あれ、ここってもしかして?
「げーっ、俺んちじゃん!」
そこは紛れもない綾辻家の門の前で、驚愕する俺をよそに「大切なフィアンセを自宅まで無事に送り届けるのは当然の行為でしょう」などと聖爾はうそぶいた。この男、大学から俺の家への最短ルートまで把握していた。こりゃもう、おみそれしました。
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