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誠さんと二人きりで……? 1

 聖爾と桃園恭子、誠さんと俺。三曲チーム対応援団チームの戦い、という形でくくるほど、コトは単純じゃない。それぞれの思惑は複雑怪奇なのだ。  まずは桃園恭子。この女にとっては同好会の未来などどうでもよくて「三連覇したアタシがやっぱり一番美人」という満足感を得るために、俺に勝利して王者の栄冠を手にする。  それから婚約を解消させ邪魔者を排除。フリーの身になった聖爾に近づくチャンスを得られれば、それでいいのだ。  誠さんの理由は明快だ。応援団団長として部室の確保は責務。さらに、俺の婚約が破棄されないよう、向こうのチームより上位に入賞出来るように頑張ればよい。  複雑なのは聖爾で、部室を切望するみんなの手前、桃園恭子への協力を拒んだせいで代表を断られ、コンテストに参加出来なくなっては困るけれど、俺たちに勝ってしまうと婚約解消が待っているジレンマ。  そして俺。承認していない婚約のせいで勝負なんて迷惑以外の何物でもないし、解消になっても構わないはずだが、それはバトルでの負けを意味する。十五位以内に入って応援団の分の部室を獲得するのが与えられた使命なのに、負けるように仕向けて入賞まで逃しては元も子もないというジレンマだ。  とかくプルプル女の思惑に振り回され、いいように扱われているのが腹立たしいが、聖爾はこの問題の始末をどうやってつけるつもりなのか。俺の誠さんに対する想いを知った以上、婚約解消もやむを得ない、なんて考えているとは思えないけど。  婚約解消──それって聖爾と俺が何の関係もない、ただの同好会仲間になるってことだよな。どこか寂しさを感じている自分に、俺は驚いてしまった。

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