98 / 120

いよいよ本番……絶体絶命、大ピンチ! 10

 出番直前や演奏中のトラブルに備えて、演奏会では替え三味と呼ばれる代わりの三味を用意しておくのが常識だし、余裕があれば箏もそうするけれど、今回はミスコン、そこまで考えていなかったのは仕方がない。  聖爾がこんなにも難しい表情をするのを見たのは初めてだった。彼は何やら考えた挙句、「美佐緒さん、春の海弾ける?」と訊いた。 「えっ、す、少しぐらいなら何とか」 「今から新しい箏を用意する時間はないけど、さっき僕たちが使ったやつなら向こうに置いてある。でも、六段の本調子に調絃し直す余裕はない、それでもいいかな」 「俺はいいけど、尺八は?」  やっと六段をマスターした誠さんに超有名で超難しい曲が初見で吹けるはずはない。聖爾は誠さんの方へ向き直った。 「僕がスクリーンの裏で吹くから、君は吹いているマネをしてくれないか。口パクの要領だよ。せっかく六段を練習したのに残念だけど、この際仕方がないだろう」 「わかりました、お願いします」 「予備のタケは控え室にある。急いで取ってくるから何とか踏ん張ってね」  手にしていた六寸管を誠さんに手渡し、その場にいたスタッフに何やら耳打ちした聖爾はそのまま扉の向こうに飛び出して行った。 「……間に合うのかな」  ぽつりとつぶやく誠さん、今の俺たちには信じるしかなかった。

ともだちにシェアしよう!