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いよいよ本番……絶体絶命、大ピンチ! 9

 俺の緊張や焦りは誠さんにも伝わったらしく、彼自身も顔を引きつらせながら、それでも「絶対に成功するから」と励ましてきた。 「……うん」  出会った時から想いを寄せていた人が傍にいる。すごく幸せなはずなのに、心の隅に何かが引っ掛かる。その存在を打ち消そうと、強くかぶりを振っても面影は消えない。 「いよいよ出番だね」  ふいに後ろから話しかけられて、俺の心臓は止まりそうになった。振り返ると、さっき向こう側に追い出された聖爾が防衛軍ファッションのまま、尺八も持ったままでそこにいたのだが、その顔を見た途端、ホッとして嬉しくなったのが正直な気持ちだった。 「戻り早くないか」 「君たちの演奏が気になっちゃって。あれ、箏はどこにあるの?」 「さっき係の人が運んでくれて、そっちの方に置いてあるはずだけど」 「もしかしてライトの傍かな、熱で絃が伸びると音が変わってくるからね」  そう聞かされて急に心配になった俺だが、幕で区切られたこの狭いスペース、十二単衣姿ではそう簡単に移動出来ないので、聖爾と誠さんが幕の裏をごそごそと移動し、舞台の脇に置かれた箏を見に行ってくれた。 「……げ、絃が切れてる!」  戻ってきた二人の顔色は青ざめていた。十三本のうち、一と七、巾の絃が切れて、箏柱が床に散乱していたらしい。  熱さで切れたのか? だが、三味と違って、糸が太くて丈夫な箏の絃は滅多に切れることはない。それに、その切り口は鋭利な刃物でスパッと切られたようになっていて、これはどうみても誰かの故意の仕業と考えるのが妥当だと聖爾は述べた。では、いったい誰が? 俺は目の前が真っ暗になってしまった。

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