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いよいよ本番……絶体絶命、大ピンチ! 8
すると、いきなり立ち上がったホイル焼き女は合図を送り、次の瞬間、前方のスピーカーから大音量の音楽が流れ始めた。
「……なーんちゃってね。さあみんなで踊ろう、サンバ!」
な、何、この曲? すっげー昔に流行ったマツヤニサンバじゃないかと思っていたら、ホイル焼きのヤツ、舞台の中央前に進み出て胸をプルプル、腰をフリフリ、テープの歌に合わせて歌いながら踊り出した。
「一緒に踊ろよサンバァー、オ、レィ!」
オ、レィ、じゃねえよ。何考えてるんだ、みんな引いちゃってるし。
衣裳は奇抜だけれどサンバの格好じゃないし、その前は邦楽の演奏とあって、そのつもりで聴いていた人たちにとっては白ける展開でしかない。せっかくのお色気作戦も一部のスケベどもにはウケたが、大半の観客には不評、大いに的をはずしてしまったようだ。
聖爾はどうしたのかと見ると、澄ました顔をして椅子に座ったまま、まるで他人事。演奏が行き詰った時はこの踊りで誤魔化すという手筈になっていたようだが、それにしたってお粗末すぎる。やっぱり春の海では荷が重かった、無茶なチャレンジだった、なんて、そんなことは最初からわかっていたのに。
「……はい、どうもありがとうございました」
さっさと引っ込めと言わんばかりの司会のアナウンスに追い立てられるように、銀色の二人組は右側の幕の方へ立ち去った。
会場のざわめきはまだ静まりそうにないが、時間も迫っているので次の十八番が舞台に上がった。情熱的なフラメンコダンスを披露する十八番、これほどの芸達者が揃っている中で、俺たちは果たして入賞出来るのか?
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