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「ま、塩対応だけじゃなくて他の女子にも少しは微笑んだりしたらどうだってことよ」
「……仲良くないひとに対して微笑む意味がわからない」
「それはまあ、俺のこの圧倒的美を見せつけてやるよくらいの大きな気持ち持ってろ」
……あ。
このひとが言いたいことがわかった。
梨奈ちゃんにだけいい態度を取っていたら、それを見た他の女子が嫉妬やらなんやらをして梨奈ちゃんに攻撃してしまう可能性があるからだ。
だから、それを未然に防ぐためにも俺に冷たい態度を取るなよって言っているわけだ。
……難しいな、それは。
だけど、俺が少しでも態度を変えればいいだけか。
「じゃあ挨拶されたら他の女子にも挨拶し返せばいいってこと?」
「そう。……ん? え、おまえ今まで返してなかったの」
「返そうとする前にどっか行くから」
「……ああ、なるほどね……」
先生がなにかを察したように俺から目を逸らした。
いや、俺だって返そうとしたよ。
返そうとしたけど口開こうとしたら女子が急に怖気付いて逃げちゃうんだって。
そんなに俺の顔って怖いのかなぁ……
うーん、と考え込もうとしたその時。急に麻橋先生が「やべっ」と俺の向こう側の方を見て言った。
すると、俺の背中から声が聞こえた。それと日常生活では滅多に聞く機会がない、ドタドタと重みを感じる足音。
見なくてもわかる。生徒指導の熊崎先生だ。
「おい麻橋! テメェ職員会議忘れてんのか!」
「えっ、いやあ、あはは。そんなわけないっすよ。ただ俺は青春の1ページを見届けてただけで」
「逃げるなこの野郎!!」
熊崎先生がすごい勢いと気迫のある顔で走ってきたかと思えば、振り向くと麻橋先生はそこにはいなかった。
あのひと職員会議すっぽかしてまでこっちに来たのかよ。
てかこの時間ってまばらに生徒が残ってる時間だからあんだけ派手な逃走劇やってたら結構な生徒に目撃されるだろ。
……あのひとってほんとよくわかんねー……
はあ、と呆れ気味にため息を吐き、時間を確認しようと思いスマホを開く。
すると思っていたよりも時間が過ぎていて、小さく「やば」と呟いた。
早く部活行かないと間に合わなくなる。
遅れると言ったとはいえあまりにも遅れすぎていると迷惑をかけてしまう。
中庭から体育館まで移動しようとひとりで校舎内を歩く。
すると、俺のクラスの吹奏楽部の女子ふたりが楽器を持ちながら歩いていた。
気配を消して歩いたつもりだったけれど消しきれていなかったようで、ふたりはすぐ俺の存在に気づいた。
ふたりともあっ、という顔をしてやや恐れ気味に「ばいばい」「部活頑張ってね」と言ってきた。
いつもなら頷くか無表情で「うん」と言うだけだったけど、今日はちょっと頑張ってみよう。
なるべく口角を上げて……
「ありがとう」
どうだろう。
上手く微笑むことができてるかな。
反応が少し怖かったので、走り気味で体育館までの道を急いだ。
すると後ろから「えっ、今笑ってた!? えっ、えっ!?」「待って!? あんな顔初めて見た!!」と聞こえてきた。
……なんかちゃんと応じたら応じたで面倒なことになりそうだ。
と思っていると、時間を確認するために手に持っていたスマホが振動した。
なんだろう、と思っているとメールの通知が表示されていた。
ついその文を見て苦笑してしまう。
『部活頑張れよ(はあと) 麻橋』
熊崎先生にあんな勢いで追いかけられてたくせによくこんなメール送る暇あったな……
……ていうかなんで俺のメールアドレス知ってんの!?
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