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「律さんって彼女いるんですか!?」
練習の休憩中、後輩の三人から急にそんなことを聞かれた。
キラキラした目で俺に近づいてくるからなんだろう、と思えばそんなことか。
「急にどうしたの」
「一年生の間で話してたんですよ、この中で彼女いそうなの誰だろうーって。で、律さんがいそうだって話になって」
いや、なんでそこで俺が出てくるんだよ。
どう考えたって優馬と爽介だろ、そういうのは。
さっさと否定しよう、と思っているとこの話を聞いた爽介が混じってきた。
優馬は引退した三年の先輩と話している。
「え、そうなの? どういうところがそう思った?」
爽介が気持ち悪いくらいニマニマしながら後輩に対してそう言った。
こいつ、確信犯か。
三人の後輩は俺のことを見つめ、全く迷うことなく言った。
「だって、律さん一年の間でありえないくらい人気ですもん」
「はぁ?」
「女子も男子もみんな律先輩かっこいい! とか話してみたい! とか言ってますよー」
「ぶっちゃけ律さんって今のクラスでどれくらいモテてるんですか? あ、もう彼女いるかもしれないのか」
「ブフッ!」
俺がクラスで全く女子と話さないことを知っている爽介が堪えられないというような感じで噴き出した。
なんで俺がそんなふうに思われてるんだよ。ありえねえって。
俺のクラスで言うなら、優馬と爽介が断トツで人気だ。女子なんて目をハートにさせながら話しているし、男子もこのふたりと話している時は楽しそうにしている。
まあその状況を作り出したのは俺だしなんとも思わないけど、俺がフランクな人間に見えるんならそれは大きな間違いであって。
「一年にそう思われてるのなんか面白いな。いいかー、よく聞け。律がこんなに生き生きしてるの部活の時か俺らと一緒にいる時だけだぞ。クラスではめちゃくちゃ静かなの」
「えーっ、そうなんですか!?」
部活の時の俺しか知らない後輩たちが、口を揃えてそう言った。
そんなに驚かれるとは思ってなくて、飲んでいた水が変なところに入りそうになった。
逆に部活の時ってそんな生き生きしてるの、俺。
俺自身が俺の顔をいつでも見れる状況にないからわからないけど。
「えぇー、全然想像つかない……」
「じゃあ聞くけど、律がマネージャーと仲良さげに話してるところ見たことある?」
「……」
おい、黙るな後輩。
と言えるはずもなく、俺は後輩が黙る様子を静かに見つめる。
別にマネージャーと全く話さないわけではない。話を振られたら応じるし、冷たい態度を取っているわけでもない。
選手のために動いてくれているのに冷たい対応なんてできるわけないしな。寧ろ感謝してるし助かる。
……から、怖いひとだと思われてなければいいんだけど。
「なんでおまえら律に彼女がいるって思ったんだよ……」
爽介がもう一度そう質問した。
今度は少し呆れたように。
「いや、だってどう見てもいるようにしかみえないじゃないですか」
「だからどこがだよ」
「顔が」
「おい西野、それ褒めてんの?」
「俺西野じゃなくて西田です……」
あ、やらかした。
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