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おまけ 柘玖志視点 恋の続き

 少女漫画ってさ、いや、それは少年漫画でもBL漫画でもなんでもそうなんだけど、物語には終わりが来る。完結マークが必ず来る。  俺の好みはね、読み終わった後に「あぁ恋って良いですねぇ、素敵ですねぇ」ってじんわりほっこりする系です。 「あ、んっ……ぁっ、啓太っ」 「……柘玖志」  久しぶりすぎて蕩けて、トロトロになって、液状化しちゃいそう。 「啓太っ」  ベッドがギシギシ音を立てる。普段、俺一人が寝転がったって、うんともすんとも言わないベッドが軋む音にもドキドキしてる。 「あっ! ん、そこっ……ぁ、好き、なんだけどっ」 「柘玖志?」 「今日、は、そこ……ダメ」  啓太が心配そうに俺を覗き込む、そのことにもまた心拍数が跳ね上がる。少しだけ伸びた髪の先に汗の滴粒があって、啓太と触れ合うとこ全部が熱くて、もちろん、中だって熱くて、おかしくなっちゃうんだ。 「そこ、ダメ、おかしくなっちゃ、あっ! んっ、ダメって言ったの、にっ」  ベッドがもっとギシギシしちゃうじゃん。 「あ、っ、壊れちゃうっ」 「啓太」 「あ、あ、あ、あ」  思わず、ギュッと抱きついたら、ギュッウウウウって抱き締めてくれて、そのままイっちゃった。しがみついた啓太の背中は高校の時よりも大きくて、硬くて、カッコよくて。 「……柘玖志」  けど、高校の時と変わらない笑顔に。 「あんま、締め付けられると、また……っ」 「ん、ぁ、嘘……啓太のまたっ、あ、あっ……あン」  なんか、俺のあっちもこっちもがキュンキュンと締め付けっちゃってた。 「あっ、イクっ、あ、あ、ああああああああ!」  啓太はプロのサッカー選手になった。高校卒業後はサッカーをしながらの大学進学を考えていたんだけど、年齢制限のある代表だけじゃなくA代表にも選ばれたことで、大学まで通うのは不可能だろうって話になった。もちろん、プロのサッカーチームからのオファーがそのタイミングでもらえたからこその決断だった。  今は一年のうち半分くらいしか帰ってこれない。プロのサッカー選手は忙しいし、家を空けることが多い。何せホームスタジアムでの試合とアウエイでの試合、両方あるわけだから、単純に一年をその二つで半分こしてるわけでさ。それプラス、代表の試合に合宿もあるわけだから。  こうして会えたのも、すごく久しぶりだった。 「平気、か? 悪い。夢中になりすぎた」  心配そうに覗き込んでる。 「平気だよ」 「そのどっか痛いとか」 「? ないよ?」  俺は久しぶりの啓太にトロトロでふわふわで、夢中になりすぎたのは多分、俺も。  だって、こうしてえっちできたのはすごい久しぶりだし。 「風呂、沸かしてくる」 「えっ!」 「! しみるのか?」 「ぇ? あ、違くて」  思わず溢れた、本音に慌ててしまう。だって、久しぶりなわけです。えっちするのが。そしたらほら、まだ一回じゃさ、足りないというか、いや、充分気持ち良いんだけど。なんというか、久しぶりなので啓太を充電したいというか。充電、確かに挿し込……いやいや、そんなことを言いたいわけじゃなくて、そんなの久しぶりのえっち後に言われたら、さすがに啓太も「どうしたんだ俺のフィアンセ」ってなるでしょ。  っていうか、フィ、フィ。 「その、えっと……」  フィアンセ、さん……が、真剣な顔で俺を見つめてる。 「はっきり言ってもらったほうがいい。会えない時間の方が多いから。ちゃんと話して欲しい」  本当に? その、さすがに電気のプラグとコンセントが、みたいな特殊設定のことは言わないけど、その。 「柘玖志」  その。 「あの……」 「うん」 「……たい、です」 「! どこが痛い? その中なら」 「ああああ、違くて、そうじゃなくて」  なんか、啓太が慌てててベッド脇にある営みセット、ローションとかそういうのね、大人のおもちゃとかじゃなくてね、に手を伸ばしたから、急いでその手を捕まえた。 「痛い、じゃなくて、したい、です」 「……」 「まだ、もう一回したい、です」 「……無理、させてない?」 「し、してないよ!」 「本当に?」 「無理なんて」  無理どころかむしろもっとしてたいって思ってます。 「けど、さっき壊れるって」 「! そ、それはっ」 「だから柘玖志に無理を」 「し、してないしてないよっそうじゃなくてっ」  うん、と頷きながら、真っ直ぐに啓太が俺を見つめたまま、コツンと額をくっつけてくれる。こういうのをナチュラルにやっちゃうとこがさ、イケメンだよ君はって思う。 「壊れるって言ったのは、ベッド」  そんでそんな君に心から大事にされてることにくすぐったくなる。 「そのギシギシするから。ひ、一人の時は言わないじゃん? 当たり前だけど、だからなんというか、その、あぁ、啓太だぁって思って」 「……」 「ドキドキした。だから、無理なんてしてない」  スパダリすぎるでしょ? 「最近、ウエイト上げたから、柘玖志のこと抱き潰しそうになったのかと」 「だ、抱きっ、つぶっ!」  言うこと成すこと、少女漫画すぎるでしょ? 「け、けど、いいよ……あの、その……えっと」  もうさ、このダーリンにさ。 「壊されちゃっても、いいよ」 「……」 「啓太に壊され、るの、ちょっと嬉しい、かも、って、わー!」  メロメロなんだ。 「煽ったの、柘玖志だから」 「あっ」 「……柘玖志、好きだ」  ホント、メロメロなんです。 『よー、元気か? なぁなぁ、オオカミ君の新書版出たの知ってる?』 「知ってる。って言うか、なんだよ、陸」 『あれ、市井帰ってきたんだろ? そしたらさ、おかえり飲み会しようぜーって思ったんだ。俺の! 編集者っぷりを語りたい! 十八歳の俺には満喫できなかった濃厚な世界のことを語りたいっ!』  この人、これをどこでそんなでかい声で言ってるんだろ。外かな。外じゃありませんように。そのうち、どえらい単語出して語りそうだし。 「あー、うん」 『じゃあ、今夜にすっか!』 「あー……今夜は……」 『なんだよ』  今夜じゃないほうがいいかな。何せ、準備はできそうになくて。 『あっ! おま、お前っ! ままままままさか!』  ま、が多いよ。 『あの王道展開! 昨晩が激しすぎて、いや、昨晩じゃないかもな、ふふ、朝方までお前のことを抱いてたんだぜ、的なベッドから起き上がれないシチュなんだろ!』  本当、この人が今、外じゃないことを祈るばかりだ。 『かああああっ! いいねぇ』  そして俺の心配をよそに、陸は「あ、バス来た」って呟くように言って、軽いノリでまた電話するわーなんて呑気に言いながら電話を切ってしまった。 「あいつ……マジで外……」  バス停であれを語ってたのか……まぁ、いいけれど。そういうとこちっとも変わらないんだ。セックスは愛でする行為ってとこ。だからやましいことじゃないんだぞってとこ。そういう奴だから。 「柘玖志? スープ作った。飲むだろ?」 「あ、うん、いただきます」 「熱いから気をつけて」 「はーい。うっま」 「よかった」 「啓太の料理、久しぶりだー。やっぱ美味い。啓太のお母さん料理美味いもんね」 「柘玖志のお母さんも美味いだろ」 「いやいや、うちはなんというか」 「俺は好きだよ」  セックス は、愛でする。 「えへへ」 「? 柘玖志?」 「んーん、好きだなぁって思っただけ」  愛ならさ、ここにいっぱいあるんだ。ベッドの中に、今、シーツが入って回ってる洗濯機の中に、このスープの中に。 「俺も、好きだよ」  溢れるくらいにここにある。  少女漫画でもなんでも、物語には終わりが来る。すったもんだがあって、色々あって泣いて笑って、そんでラストに完結マークが必ず来る。  今、俺らはそのすったもんだの後の続きをしてる。恋の続き。つまりは、愛みたいなね。  そんで、俺の好みはね。 「俺も、大好き」  読み終わった後に「あぁ恋って良いですねぇ、素敵ですねぇ」ってじんわりほっこりする系です。

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