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序章

「さーあさあ、今宵幕を開けるは不思議まやかし妖狐の舞台!......えーっと...。あ、そうじゃ、えー...紅の空に揺れる尾は、金色に輝き...ん?あ、輝いておる、か。んで、次は...」 「なあスイ、お前もうちっと練習してから見せに来いよ」 「ぐっ...。しょうがないじゃろ!わしは忙しいんじゃから」 「はっ、よく言うぜ。どうせ水まんじゅうの盗み食いでもしてたんだろ」 「なぜ分かった」 「 阿呆が」 一見無人の神社の境内。現代ではあまり馴染みの無い言葉遣いをした声が、二つ聞こえてくる。 ほら、ようく目を凝らしてご覧なさい。賽銭箱の前に、人ならざるものの影。 あら、まだ見えない? それでは、貴方に特別に、不思議な眼を与えましょう。有効期限は、この物語の幕章まで。 さーあさあ、お立ち会い、お立ち会い。哀れな妖狐の恋物語。お代金は、貴方のささやかな幸福だけ。 どうか、おしまいまで耳を澄ましておくれ。

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