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妖狐と少女

「ごちそうさま…」 すっかり食べ終えてしまってから、急に羞恥心が襲ってくる。散々憎たらしい態度を取っておいて、食べ物にはがっつくだなんて……。 (わし、みっともない…) ズーンと、耳が折れる。すっかり負のオーラを纏ったスイに、柚香は少々困り顔だ。 「あ、あの、やっぱり美味しくなかったですか?ごめんなさい、初めて作ったものだから…」 ピクッと狐耳が動く。 「…お前が、作ったのか」 顔を上げて、聞き返す。 「!えぇ!悠悟君が作り方を教えてくれたんです!スイ様の好物だからって」 「悠悟、が」 悠悟が、教えた。 「彼、私よりお料理上手なんですよ!この前も、ケーキ焼いてくれてー」 水まんじゅうの作り方を、柚香に。 ――それを聞いて、なぜだかとても複雑で、嫌な気持ちになった。悠悟に水まんじゅうが好きだと言ったのは、柚香にこうして作ってもらうためではない。 「そうなの、か…」 二人が接する機会を少しでも作ってしまった自分が憎い。自分が喜ぶだろうと、仲良く笑いながらキッチンに立った二人の姿が目に浮かぶ。 ただ、一番苛立ったのは、こんなにも幼稚な理由で拗ねている自分自身。 (なんで、素直にありがとうって言えんの…) 本当、嫌になる。 『妖狐の独占欲と妬みは恐ろしいくらいだぞ?』 (……わかっとるし) 分かっている。分かっているけど、モヤモヤが消えてくれない。こんな自分、悠悟を好きになるのもおこがましい。 綺麗になりたい。柚香のように。悠悟に、恋されるくらい綺麗に。 ぎゅっと首飾りを握りしめる。 翡翠と瑪瑙があしらわれたこれは、いつからか身に付けていた。 京蘭からは、決して外さないようにと、キツく言われている。 理由こそ教えてくれないのに、スイが外そうとすると鬼の気迫で止めてくるのだ。

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